スメタナ連作交響詩「わが祖国」

「モルダウ」という曲、皆さんご存じでしょうか?

小さな一滴の水が集まって流れとなり、やがて大きな流れとなっていく…そんなモチーフから、障がい者とともに生きる社会をめざして活動している「コバケンとその仲間たちオーケストラ」でもこれまでによく演奏されてきた曲のひとつです。

この「モルダウ」を含むスメタナの連作交響詩「わが祖国」は、“プラハ市民に捧げる連作交響詩”という副題もつけられていて、毎年「プラハの春音楽祭」では必ず演奏されるチェコを代表する楽曲です。



プラハの街とモルダウ
ヴァルタヴァ(モルダウ)とプラハの街


スメタナ作曲・連作交響詩「我が祖国」

日本では2曲目の「モルダウ」がとくに有名だが、全6曲からなる連作交響詩「わが祖国」は、チェコに伝わる古い伝説をモチーフにした曲と、チェコの豊かな自然を題材にした曲とが2曲ずつペアになって構成されている。


1.「高い城」(Vyšehrad)

ボヘミア王国のヴィシェフラド城で「竪琴をかきならしながら、戦いの武勇を語る」という、チェコの古い説話を題材にしている。冒頭ハープに出る旋律は、「勝利の竪琴」を象徴するテーマとして、この連作交響詩全体の重要なモチーフにもなっている。
(*冒頭のシ♭・ミ♭・レ・シ♭=BEsDBは、スメタナ自身の名前のイニシャルから取ったという説もある。)

高い城(イメージ)
高い城(イメージ)


2.「モルダウ」(Vltava)

冒頭2本のフルートのかけ合いにハープや弦のピッチカートが重なる。小さな滴がキラリと輝きながら寄り添い、やがて流れとなり、弦楽器群による美しいテーマとなって現れる(楽譜)。チェコの伝統的なメロディ(「きらきら星」のチェコ版のような感じの曲)がモチーフになっている。


モルダウ(楽譜)

その流れは、ボヘミアの大地に豊かな恵みをもたらし、農夫たちが結婚式で踊る風景が見えたり、月の光に川面を美しく照らし出されながら、ゆったりと流れていく。

やがてヨハネの急流で水は大きく渦を巻き、大きな流れとなってプラハの街を悠然と流れ、エルベ川へと注いでいく。
その最後に近いシーンでは、そびえ立つ風景としての「高い城」も姿を現わす(1曲目の冒頭のテーマより半音高い調になっている)。


モルダウとプラハ城
モルダウから見たプラハ城


3.シャールカ(Šárka)

恋人に裏切られたことから、世の中の男性への復讐に燃える恐ろしい女神の伝説で、チェコでは誰もが知っている古い物語。

スメタナ自身が「細部にいたるまで情景が目に浮かび、物語について行けるであろう」と書いているとおり、物語をそのまま音楽に表している。

♪冒頭:シャールカの怒り
♪(行進曲風)シャールカを退治するよう命じられたツティーラトの軍勢が近づいてくる
♪シャールカは自らを岩に縛り付け「助けてちょうだい」と懇願する
(クラリネット=シャールカのモチーフ)
♪「そうか、よしよし助けてやろう」(チェロ=ツティーラトのモチーフ)

♪愛が芽生えたかのように、美しくロマンティックな展開に…
♪楽しく祝宴が始まる。3拍子:呑めや歌えやの大騒ぎ
 やがて酔いも回りツティーラトたちは眠ってしまう(ファゴット:いびき)

♪様子をうかがいに出るシャールカ(クラリネット)
 にわかに動き出す弦楽器群、そして…虐殺!
 さらにテンポアップして、トロンボーンによる勝利の宣言へ!

惨殺劇ではあるが、なぜか最後のトロンボーンの勝利の宣言は明るく響く。
本来は弱いものが知恵を絞って強いものに勝つ、という意味で、この連作交響詩全体の「勝利」というテーマを象徴しているとも言えよう。


シャールカ
シャールカ

ちなみに、シャールカという名はプラハ郊外の谷の名前にもなっている。
次の「ボヘミアの森と草原にて」とペアで聴きたいが、演奏会ではここで休憩となってしまう。かつてのレコードでもここでA面からB面へとひっくり返すことになっていた。「勝利の象徴」で第一部の終わりと考えておこう。


4.ボヘミアの森と草原にて(Z českých luhů a hájů)

ふたたびチェコの自然を題材にした楽曲。美しくも厳しい自然、随所に出てくる弦楽器の刻みはわたってくる風か…?途中ドイツ風の旋律や牧歌的なのどかなメロディも出てくるが、美しいだけではなく厳しい自然でもあるようだ。


5.ターボル(Tábor)

この5曲目「ターボル」と6曲目「ブラニーク」は、いずれもフス教徒の歴史と密接に絡んでいて、苦悩の中でもゆるぎない強い意志のテーマ、「汝ら神の戦士たち」というフス派のコラール、さらに祖国を愛する祈りのテーマが折り重なるように登場する。

15世紀、ヤン・フスがプラハ大学(カレル大学)の学長になったころ、イングランドのジョン・ウィクリフの影響を受けて教会改革がおこなわれる。
当時、権力主義的・世俗的になっていた教会を否定し、ドイツ人を追放したため、フスとプラハ市はカトリック教会から破門されることとなる。
さらにフスが「異端者」として火あぶりの刑に処せられると、ボヘミアでは大規模な反乱へと発展する(=フス戦争)。

ターボルは南ボヘミア州の町で、フス戦争のときにフス派の拠点となった場所である。


ターボル


6.ブラニーク(Blaník)

こちらは中央ボヘミアの山の名前である。その山奥には、千年の時を超えてチェコ民族の守護聖人が眠っていて、民族が危機に瀕した時に蘇って救ってくれる、という伝説がある。
 
5曲目のターボルの終わりのフレーズをそのまま受け継ぐ形で金管によって力強く始まり、「汝ら神の戦士たち」のコラールと静かな祈りとが重なっていく。

やがて苦しい戦いの時は過ぎ、遠くから勝利が近づいてくる。宗教的なメロディながら行進曲風に力強くなっていく。
 
そして最後のクライマックスでは、1曲目の「高い城」のテーマ(=勝利)が「汝ら神の戦士たち」のコラール(=チェコの人々の祈り)と重なって呈示される。
そしてさらにテンポは速くなり、チェコの永遠の繁栄をたたえるかのように再び「高い城」のテーマが高らかに鳴って結ばれる。


プラハ城とヴァルタヴァ(モルダウ川)
画像はサイトで検索して見つけたイメージです


<追記>

ドヴォルザークは、スメタナより約10年後に現れたチェコの作曲家で、2人はチェコで「国民楽派」と呼ばれている。ドボルザークはアメリカに移り住み、アメリカの新天地から故郷・チェコへの思いを最後の交響曲9番「新世界より」にあらわした。
記念して建てられたドボルザークホールは、プラハ城のすぐ近く、モルダウのほとりに今もたたずむ。 

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Re: No title

邊見さま

コメントいただいてからもうだいぶ月日が流れますね。
でも昨年12月に神奈川でのコンサートでお目にかかり、コバケン先生ともご縁があったと知り、世間は狭いな…と思いました。
「管理人だけに表示」にていただいたコメントですが、ご了解いただけましたのでここに引用返信にてオープンにさせていただきます。
いつの日か、コバケン先生のもとでご一緒に演奏できたら本当に嬉しいですね!



> こんにちは。
> 先日はコメントをありがとうございました。
> ブログ、拝見させていただきました。
> ランキングなんてあるんですね。
> 知らなかった機能でこのように繋がりができるのは
> 本当に面白いですね。
>
> ところで、モルダウですが、大学4年の時
> コバケンさんの指揮でドヴォルザークの8番の一番フルートを吹いた時、
> モルダウの一番が一回休んだので高い塔と共に
> コバケンさんの下で演奏したので懐かしいです。
> 大学でのオケの思い出としてもコバケンとの
> ドヴォルザーク8番は一番思い出深い演奏会でした。
> その後、友人と留学中にチェコに行き、この写真のような
> プラハの風景を見てきました。
> ものすごく懐かしく、そして綺麗に撮れている写真ですね~。
>
> 長くなりましたがもう一点。
> コバケンととその仲間たちオーケストラ 、始めて知りました。
> 私は小学校が養護学校の、中学校が盲学校の隣の学校で
> 音楽を始めた時、彼らに音楽で関わることを最終目的としていました。
> しかし、音楽を聴かせることしか頭になかったのですが
> 一緒に演奏する!という素晴らしい選択肢に
> すごく感銘を受けました。
> もしいつかお手伝いできることがありましたら
> お声をかけてくださいね。
> いつかお会いできるのを楽しみにしております。
>
> それでは毎日蒸し暑いですがお体にお気を付けください。
>
> 邊見 亜矢
プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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