ドッペルドミナント

12月14日(土)


前に書いた「コードで見るショパン」の試みは、たとえ分散している音であってもその時々にどんな音が響いているのか、音楽をタテの線で止めてその瞬間の響きに名前を付けるようなものです。

「G」というコードは「ソシレ」という明るい響き、「Dm」は「レファラ」という暗い響きで、これは絶対的に変わりません。コード名というのは和音の響きにつけられた固有名称のようなものだと言ってもいいでしょう。

なんですが…

「G=ソシレ」という和音は、ト長調の曲では主音「ソ」をベースとするⅠの和音(トニック)ですが、ハ長調の曲の中では5番目の音(属音)をベースとするⅤの和音(ドミナント)となります。

つまり同じ和音の響きでも、どういう場面・どういう前後関係の中で登場するかによって役割・顔・聴こえ方・色彩が変わって感じられるということです。

「コードで見るショパン」の記事に、ドッペルドミナントについて触れたコメントをいただいたのですぐに返信コメントしましたが、ちょっと専門的な話になりますので私なりに解説します。


ドミナントとは

先ほど書いたように、ある調の中で主音から5度上の音(=「ド」から始まるハ長調の音階では5番目の音「ソ」)を属音といいます。その属音をベースとする3和音は明るい響きですが、これをハ長調のⅤの和音=ドミナントといいます。

ちなみに、ある調でできる7つの3和音の中で明るく響く長三和音は、Ⅰの和音=トニック、Ⅳの和音=サブドミナント、そしてこのⅤの和音=ドミナントの三つですが、これらはコード名(和音の固有名詞)ではなく、ある調の中での役割を示すものです。


ドッペルドミナントとは

ドイツ語の「ドッペル」は英語では「ダブル」、日本語では「二重の」という意味です。
「ドッペルドミナント」を直訳すると「二重のⅤの和音」という意味です。
何がどういう意味で二重なのか…?

ハ長調のドッペルドミナントは「レファラ=Dm」の中音が半音高くなった「レファ♯ラ」という和音です。でも「主音のひとつ上(Ⅱ)の和音を明るい長三和音に変えたもの」と考えると、なぜそれを「ドッペルドミナント」と呼ぶのか意味不明ですね。

ハ長調のドミナント(Ⅴ)の和音は「ド」から5度上にある「ソシレ」ですね。その「ソ」(=ハ長調の属音)を主音とする音階はト長調。その中での属音は「ソ」から5度上にある「レ」です。ト長調では「ファ」に♯が付きますから「レファ♯ラ」という和音。これが最初のハ長調の中で見ると「ドッペルドミナント」となるのです。

その関係を上の説明から逆算するように示したのが下の図です。

ドッペルドミナント
ハ長調の「ドッペルドミナント」のベース音「レ」の5度下には「ソ」があり、その「ソ」をベース音とするのがドミナント、そのさらに5度下にハ長調の主音=「ド」があります。


和音進行の中での移り変わり

ジャズでよく用いられるⅡ→Ⅴ→Ⅰという和音進行も、ハ長調でそのベース音の動きを見ると「レ」→「ソ」→「ド」という動き。そのベース音にそれぞれ明るい長3和音を重ねると、ハ長調の中では「ドッペルドミナント」→「ドミナント」→「トニック」という流れになります。

ベートーヴェンの交響曲1番や9番では1楽章の出だしは、いったい何調なのかよくわからない響きからはじまり、ある和音が登場してそれが主役かと思っていると、「俺はじつは5番目の兄弟なんだ」という顔をちらりと見せます。するとすかさず5度下から本来の主役の調が登場する、そんな使い方をよくします。

また、ベートーヴェンの「第九」の4楽章では、上の図で示したように、ある響きがじつは後へと続くドッペルドミナントで、5度下のドミナントへ、そしてさらに5度下の本来の調へ、という移り変わりを示す箇所が何か所も出てきます。

ショパンのワルツ(作品64-2)
曲のはじまり早々に、トニック→ドッペルドミナント→ドミナント→トニックという動きをしていることが分かります。

ショパンワルツ 

このように、割とはっきりしている調性の中で、主音からいったん離れ、めぐって元の主音に戻ってくる循環コードの中でよく使われます。

また、ある響きが安定して聞こえ、ここが安住の地かと思うと、そこに「7th」の音が加わってきて「5番目の兄弟」の顔が見え、5度下のより安定したステージへ、そこで安定したかと思うとまた「7th」が加わってきてまた5度下へ…と繰り返していくのが5度進行ですね。

これらについてはリハーモナイズの最初の記事の前半に書いています。

♪ 

一瞬ごとの響きをコードという固有名称で名づけてみるのは、いわば音楽をタテに切ってみるようなものです。次に、そのコードが前後でどういう関係でつながって流れていくのか? 
コードとしてとらえた3和音の響きのベース音が前後でどうつながっていくか、中声部はどうか、といた具合に、今度は音楽の流れをヨコにみていくのです。

ただそこに音符が書かれているからその音を出すのではなく、全体としてはどういう響きが鳴っているのか、前後はどういう流れになっているのか、その中で自分の出す音の役割を考えるのです。

複雑な音符がたくさん重ねられたクラシック音楽、ことオーケストラの楽譜の中からも、そこで鳴っている音の響きをまずコードでとらえ、それが前後の流れてどうつながっていくのか、という見方ができたら面白いですし、演奏する上でも自分の音の役割・意味、メロディラインがいっそうはっきりと見えてくるでしょう。それこそが本当の意味での「生きた音楽」だと思います。


それは、メロディ楽器ではないわが打楽器のティンパニにもとても重要なことです。
ほかのどの楽器よりも音の数は少ないですが、それだけに重要なポイントで音を出します。
「第二の指揮者」と言われるほどその影響力も絶大な音は、いま鳴り響いているオーケストラ全体の響きの中でどういう位置にある音なのか? 2つないし3つの音のうち、ここではどの音により重心をかけたらよいのか…?

「★ティンパニのつぶやき」というカテゴリーの中に、「ティンパニの高低音 ~音の役割と配置について~」という記事も書いていますのでご参照いただけたら。

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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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