ティンパニの高低音 ~音の役割と配置について~

12月14日(土) 2nd


「50代ことはじめ」のカテゴリに書いた主和音(Ⅰ.トニック)・属和音(Ⅴ.ドミナント)の話題からの延長で、久々の「ティンパニのつぶやき」です。

太鼓族の楽器の中で数少ない「音程のつくれる太鼓」といえばティンパニ。
単に「高めの音、低めの音」ではなく、ほかの楽器ともちゃんとハーモニーをつくれるしっかりとした音程が出せるのがティンパニです。

昔は動物の皮でしたから、リムのネジを締めたり緩めたりして音程を変えられる範囲も限られていましたが、今はABS樹脂ですから伸縮性もあります。リム上の8つのネジは皮を均等に張るためのもので、ヘッド全体を鼓のように絞るメカニズムがペダルと連動していて、ペダルを踏み込めば全体が絞られて高音に、ペダルを上げれば緩められて低音に、曲の途中でも瞬時に音程を変えることができます。

さて、ここではティンパニという楽器のメカニズムのお話しではなく、ティンパニで出す音程は曲の中でどういう役割があるか、というお話しです。



ティンパニの音程(チューニング)は4度または5度で合わせることが非常に多いです。あらためてそれはなぜでしょう?

古くは中世の教会旋法の時代からいろいろな変遷を経て、バッハやヘンデルの時代になり、楽曲で中に今日のティンパニの原型ともいえる楽器が登場しました。その中で5度の音程というのは非常に重要な音だったのでしょう。

ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典派から、メンデルスゾーンやブラームスなどの初期のロマン派までの多くの曲では、同じ楽章内では2音だけで演奏することが多いです。曲の途中で音変えが必要な場合もありますが、同時に使うのは2音で、たいてい2台あれば演奏できます。
 
チャイコフスキー~近現代の作品になってくると同じ楽章内に3つ・4つ・5つも音が出てくることがあるので台数もそろえなくてはいけませんが、それでもせいぜい4音か5音。ほかのチェロ、コントラバス、トロンボーン、チューバなどの低音楽器のどれと比べても限られた音数しか出てきません。それだけに「要」となる音だともいえます。


では、ティンパニの出している音程はオーケストラ全体の響き・曲の流れの中でどういう役割の音なんでしょうか?

有名なベートーヴェンの交響曲5番「運命」では「ド」と下の「ソ」に合わせます。同じくベートーヴェンの交響曲1番もハ長調でティンパニの音程は同じく「ド」と下の「ソ」
3番「英雄」は変ホ長調でティンパニの音程は「ミ♭」と下の「シ♭」
ずっと飛ばして最後の交響曲「第九」はニ短調でティンパニの音程は「レ」と下の「ラ」

いずれも、高い方の音がその曲の調性の主音で、低い方はその4度下。4度下ということは1オクターブ上で考えると主音より5度上の属音(Ⅴの和音のベース音)です。

でも、必ずしも低い方が属音で、高い方が主音とは限りません。同じベートーヴェンの交響曲7番はイ長調で、ティンパニは「ラ」と上の「ミ」。
ここでは低い方の音が主音で、もう一台は5度上の属音です。

でも、こんなことをふだんあまり改まって考えないでしょう。
楽譜をもらって、そこに出てくる音にチューニングして、休みの小節を数えて叩いている分には、その音が主音なのか属音なのかなんて関係ない、知ったことじゃない?(笑)

実際にたたく場面では、微妙なタイミングや音色、強弱のバランスや表情など、いろいろなことに気をつけなくてはいけません。
楽譜上に強弱記号やアクセントの表示があれば当然それに従いますが、仮にそういう表記がなくても、ちょっとした強弱、音の塊のニュアンス、音色、微妙な溜め込みなど、ティンパニのちょっとしたニュアンスの持ち方ひとつでオーケストラ全体の音色・曲想がガラッと変わってしまう責任重大なポジション。

ならばなおさら、自分の出している2つの音程がオケ全体のハーモニーの中でどういう役割なのか、場面ごとに下の音から上の音へ、上の音から下の音へ移る際に、どちらの音により重みがあった方が良いのか、どっちの音を大きめに出した方がいいのか、といったことをちょっと考えてみることはとても重要だと思います。



たとえば、ビゼーの有名なオペラ『カルメン』の中にこんな場面が出てきます。
劇版では第4幕の前奏曲、組曲版では「アラゴネーズ」という題名がついている曲。闘牛士たちが競技に向けて準備をする場面、いかにもスペイン風の曲です。

同じようなフレーズが2回繰り返されたあと、むせび泣くような弦楽器に続いてメロディが下降していった後にfffで伸ばし、テーマが再現される重要なこの箇所。



カルメン 
★画面上をクリックしていただくと、全面を大きくご覧いただけます


ほとんどすべてのパートは「ラレドシドラシソラファー」と「ファ」の音を伸ばしている場面で、ティンパニは下の「ラ」の音を大きく奏でます。
メロディは「ファーミ」と伸ばして主音「レ」へと移行します。その直前の「ラ」は属音、とても重要な音です。
ティンパニ以外に「ラ」を出しているパートは、コントラバス、トロンボーンの3番などごく限られた楽器だけで、他の楽器はユニゾンで「ファ」の音です。

この1発は、それこそステージの床全体を「ラ」の音で振動させて染めてやるぐらいのつもりでしっかり出したいところ。死んでもカスってはいけない音です!

ところがティンパニのパート譜面だけを見ると、ここの強弱指示は「f」となっているんです。他のオケ全体は「fff」なのに。ティンパニだけ弱めに叩けという意図で作曲者はそう書いたのでしょうか…?

交響曲などでもよくあることですが、前からの流れとしてのダイナミックスは「ff」なのに、ある1つの音だけに「f」がついている場合、「その音をとくに強調して」という意味だったりします。この場面もまさにそうでしょう。
まずは自分なりにそう解釈して思いっきり叩いてみて、「大きすぎる、もうちょっと遠慮して」と指揮者から言われてから考え直せばいいでしょう(笑)

とにかく、自分のパートだけを見て「f だからこの程度の大きさ、fffならこの位…」などと絶対的なボリュームレベルや叩くバチ(マレット)を決めてはいけません。

常に曲全体・オケ全体の中でのバランスを見ながら、ひとつひとつの音のイメージ・役割を考えることがとても重要になってきます。


左=低音 or 右=低音 ?

ところで、音の高低差のあるティンパニを複数並べる場合、奏者から見て左側=低音・右=高音に並べるか、逆に左側=高音・右=低音に並べるか?

最近は後者の右=低音に並べるティンパニ奏者も増えてきたように思います。
左=低音に並べるのをジャーマン方式、右=低音に並べるのをアメリカン方式と呼ぶようですが、必ずしもドイツでは左=低音というわけではなく、世界的に決まったルールというのもありません。

私の場合、ピアノでも木琴類でもハーモニカでも、左側に低音・右側に高音があるものだという感覚を身体が覚え込んでいるので、ティンパニも左=低音の配置でずっとやってきました。

ティンパニ(左低音) 左=低音


でも、反対に右=低音に配置するにもそれなりの理由があるようなんです。

高音域の小さな楽器と、低音域の大きな楽器とを比べたら、鳴らすためにはどちらがより大きなエネルギーが必要でしょうか?
バイオリンを弾くのとコントラバスを弾くのとを想像してみてください。当然ながら大きい楽器の方がより多くのエネルギーが必要ですね。低い音は振動幅が大きく、共鳴させる器も大きいのが常です。

ティンパニも同じで、楽器を十分に鳴らして高低いずれも均等に聞こえるには、低音(大きい楽器)を鳴らすのにより大きなエネルギーが必要なのです。同じ力でたたいたら客席で聞いたときに低音の方が弱く聞こえてしまいます。
 
また、先ほど書いたように、低音の方が属音としてとても重要な役割を果たす場面もけっこうあるということ。

仮に奏者が右利きの場合、右側に低音があった方が、低音をよりしっかり打てるというメリットが出てくるわけです。

私も試しに、よく知っている曲でティンパニの配置を逆にしてやってみたことがあります。
というのも、コンサートで私だけでなくもう一人別の奏者と交代するような場合、もし相方さんが右=低音で慣れてきた方だと困ります。
曲の途中でステージ上のティンパニを並べ替えるのもみっともないし、そんな時間もないでしょう。もし私がどちらにも対応できたら便利かな…と。

実際、ドヴォルザークの交響曲8番や9番「新世界より」、シベリウスの交響詩「フィンランディア」などの曲では、右に低音を置いた方がやりやすいと感じる場面もあります。


ティンバニ(右低音) 右=低音


トレモロ(あるいは3連符や5連符など奇数の音符)を叩いていて高・低いずれかへ移る場合は、右には右手から、左には左手から飛べばよいので問題ありませんが、高い音を速い16分音符で4つ刻みで叩いていて次の頭で低音に飛ぶ場合、右手で叩きはじめて左側の低音に飛ぶためには腕をクロスさせなくてはいけませんが、右側に低音があればすんなり楽に右手を飛ばせます。
 
逆に低音で4つ刻みをやって高音に飛ぶ場面もあるので、どっちもどっちですが、クロスさせて左側の低音を正確に狙うよりも、右に低音があると気持ちの面でも安心ということもあるようですね。

まあ、そんな小手先の都合や右か左かの議論はどうでもいいんですが…(笑)

「低音の方こそしっかり叩かなくてはいけない場面が多い」ということだけはちょっと頭の片隅に意識しておいた方がいいかもしれませんね。


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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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