なんのために音楽を?

~アマチュア・オケ雑感~


星の数ほどあるコンサート

コンサートのプログラムに挟み込まれるおびただしい数のチラシ。アマチュアの演奏会でプログラムに挟まれるチラシは、海外から招へいされる名の通ったプロではなく、ほとんどがアマチュアの楽団やグループです。
芸術の秋、首都圏だけでもこれだけのコンサートがどこかで行われているんだなと改めて実感します。それもかなり編成の大きな難曲にチャレンジする演奏会も。一昔前にくらべて音楽のすそ野も確実に広がっているのですね。


アマチュアオケの運営、活動を続ける苦労

アマチュアオーケストラの多くは、ふだんは音楽以外に本業の仕事を持つ人や学生・主婦などが休日に集まって練習し、年に1~2回の定期演奏会を開催します。
ふだんの練習場所の確保・指導の先生の依頼・練習計画・団員への連絡、毎回の練習会場への大型楽器の搬出入、そして半年~1年先の会場を確保し、コンサートが近づけばチラシ・チケット・プログラム作成…etc.

アマチュアであっても、ある曲を演奏しようと思ったらプロと同じ楽器・編成を揃えなくてはいけません。プロのオーケストラならば専属の事務局(演奏するメンバーとは別の、オーケストラの運営・事務を行うスタッフ)がやってくれるようなことまでアマチュアはすべて自分たちでやらなくてはいけません。

プロならひとりひとりのプレイヤーが高度な技術をもち、どんな曲でも1~2回のリハーサルで本番という世界。とても厳しい世界ですが奏者は演奏だけに集中できます。
ところがアマチュアは同じ曲を半年~1年かけて練習を重ねます。当然ながら毎週の練習場所の確保や楽器の運搬が必要になります。

私も学生時代から社会人オーケストラにも参加していたので、その苦労はよく知っています。学生オケは練習面の厳しさはありますが、楽器をふだん納めておける場所や決まった練習場所は確保されています。
一方、社会人オーケストラの多くは、学生オケのような楽器セクションごと・学年ごとの規律も厳しいことを言う先輩もなく、家族的でわきあいあいとしている良さはありますが、年齢も経験も価値観も違う人たちの集まりなので、どういうオケとしてやっていくかをまとめるのが大変。また、学生オケのように決まった練習場所や楽器の保管場所は持っていないため、毎回の練習場所の確保や楽器運搬に苦労を重ねているところがほとんどではないでしょうか。


◆演奏会を案内する

お盆や正月に親戚が集まると「○○さんのお嬢さんはヴァイオリンをやってらっしゃって…」「すごいですね~」といった話しになります。またドラマの中でコンサートやリサイタルのシーンが登場する場合も、「クラシック音楽(楽器)をやっている=ハイソで凄いこと」という見られ方をするのが定番のようです。クラシック音楽は敷居が高い印象が日本の社会全体には根強いようです。

では実際に音楽を演奏している人たちは、自分たちが音楽を演奏することが好きであることはもちろんですが、誰かに聴いていただく機会をどう考えているでしょう?
音楽は、空気の振動を通じて、聴く人になにかを伝える力があります。音楽は聴く人がいてこそ成り立つ瞬間の芸術です。

日頃の練習の成果を見てほしい、仕事や学業などふだんの自分とは違う一面を見て知ってほしい。聴きに行く側も「○○さんが出るから見に・聴きに行こう」という身内の「発表会」的な面ももちろんあるでしょう。

でも、大きな会場でも小さな会場でも、入場チケットが有料でも無料でも、プロであってもアマチュアであっても、「演奏会・音楽会(コンサート・リサイタルなど)」と名がつくものは、単なる内々の「発表会」ではなく、不特定多数の人に「音楽の感動を伝える場」だと思うのです。

私も学生時代からオーケストラに所属し、毎年春と秋には定期演奏会があり、年末には学校行事として「メサイア」のコンサートもありましたので、コンサートが近づくと友人・知人・先生にもできれば来ていただきたいと案内をしてきました。

「負担金が大変でしょう」とチケットを喜んで買ってくださり、こちらの近況報告にもなるけど、コンサート当日にはあまり姿を見せない方もいらっしゃいました。
でも、ほかのゴルフ・釣り・スキーなどどんな趣味でも、道具を揃えるのにもシーズンに出かけるにも費用はかかるもの。そういう意味では音楽も同じです。

楽器はちょっと高価ですが、毎回の演奏会にかかる費用は、使用する会場にかかる費用や指揮者・ソリストなどにいくら出演料を払うかなど、コンサートにかかる費用を団員の頭数で割って算出します。月ごとの活動費を「団費」として集めたり、演奏会ごとに負担金を払う形で多くの楽団は運営されているはずです。

仮に公共のホールを当日の午前・午後借用して、80人の団員の頭数で割ると一人だいたい1万円。それと引き換えに1枚1000円のチケットをひとり10枚ずつ配布すれば、800席分になります。それを各団員が有料で友人・知人などに売れば元がとれますが、べつに元を取りたくてご案内するわけではありません。
チケットノルマの元が取れても実際にはいらっしゃらなくて空席ができてしまうより、本当にちゃんと来てくださる方には無料でチケットを差し上げてもいいと私は思います。もちろん席を埋めるためではなく本当にその人にぜひ来てほしいと思ってご案内します。

ただ、なかなかその気持ちが通じないこともありますね。仮に1000円でも500円でもお金をいただくと皆さん頑張って来てくれますが、ただでチケットをもらうとちょっと天候が悪かったり、逆に行楽日和に恵まれすぎたりするとコンサート会場に足がむかなかったり…
どの世界でもお客さんを確実にお呼びするというのは難しいところです。

また、「ほかに誰か知っている人は行くんですか?」「○○さんも行くのなら…」といったお付き合い的な会話もよく出ます。ある人のコンサートに行くこと、あるいは会場で誰かに会うことに何か特別な意味でもあるかのように…

別に人間観察のために音楽をやっているわけではありませんが(笑)、演奏会ごとにご案内・招待・チケットのやり取りなどを通じて見えてくる人間模様って色々あるんですね。
私は純粋に音楽の感動を分かち合いたいだけのに…


◆限られた日時だけの「生もの」

絵画や写真の個展はたいてい1週間ぐらいの間、朝から夕方まで開催しているので、都合のつく時に来ていただければいいですね。主催者が会場に詰めていれば、友人・知人や通りすがりによってくれた人と挨拶を交わしたり作品談義をすることもできます。

でも演奏会は、何か月も前に会場を予約した日のせいぜい2時間半程度の限られた時間。その日時にそこに来ていただいて同じ空間で演奏を聴いていただいてこそ、賞味期間限定の「生もの」です。

でも、アマチュアは終演したら音楽の余韻にひたる間もなく楽器を搬出し、舞台のばらしを手伝い、時間までに完全撤収しなくてはなりません。
せっかく告知した友人・知人が楽屋なり舞台袖を訪ねてくださってもなかなかゆっくりご挨拶する間もなく、遠慮して姿を見せずに帰ってしまわれると、来てくださったのかどうかさえ分からないこともあります。たとえ演奏はそれなりに納得のいくものだったとしても、誰かに聴いていただいて感動していただけた実感があってこそ。それがないと寂しいものです。


◆何のために音楽をやるの?

アマチュアオケをずっと続けてきて、それなりに準備にエネルギーを費やし、やっと迎えた本番はそれなりに感慨深いものがあります。

でも、終演後の余韻も消えやらぬうちに楽器をトラックに積み込み、心地よい疲れと充実感の中でふと「あぁ、明日からまた仕事か~」という現実に引き戻される瞬間、せっかくご案内した人が来てくださらなかった、もしかしたらいらしてたのかもしれないけど遠慮して楽屋や舞台裏に顔も出されることもなく帰ってしまわれたため、だれが来てくださったのかもわからない。あるいはお客さんの入りが極端に少なかったりすると「私は何のために音楽をやってるんだろう?」という虚しさが押し寄せることも…


音楽活動をやっていることを就職の際に面接者に、あるいは職場内の新しい部署の上司に告げると、たいていみなさん「そういう活動は素晴らしい。ぜひ仕事と両立して続けたらいい」とおっしゃいます。でも、半年以上前から決まっている演奏会当日が近づいて、とんでもない飛込み仕事が入りそうになってくると「仕事と趣味とどっちが大切なんだ」ということを必ず言われます。

メンバーの多くはそういうジレンマに立たされてきた方も多いはずです。職場だけでなく、親の介護や家族の問題など、本業をほかにもち社会生活をしながら音楽活動を続けることが難しい場面も多々あります。

若いうちは「ショスタコ吹きたい」「~~のオケでは今度マーラーの何番をやる」など、友達つながりであちこちのオーケストラをハシゴして大編成の難曲にいどみ、同年代がデートに明け暮れている週末も演奏三昧の青春を送り、腕を磨くのもいいでしょう。
でも、ある年齢になって仕事もそれなりに忙しくなり、親も歳をとり、子供も成長し…というライフサイクルの中で、そうそう「自分が演奏したいから」だけでは厳しい場面も出てきます。

私もその例外ではなく、下の娘が命を宿してくれたとき、毎週日曜ごとにアマチュアオーケストラの活動(=午前中の練習だけでなく、午後は運営のためにミーティングや演奏会に向けた作業などでなんだかんだ夕方までかかる)を続けていたら家庭も崩壊しかねない、というところで一大決心をしてアマチュア活動を一時休止しました。
 
電車や街で楽器ケースを持った人を見かけると、長かった青春をどこかに置いてきたような寂しさにさいなまれました。そして「音楽そのものを完全にやめると宣言したわけではない」と自分に言い聞かせていました。

でもその一時休止の時間があったおかげで、自分と向き合い、巡ってくるノルマとしてではなく純粋に音楽とも向き合うことができました。そして休止から1年ちょっと、世界的なマエストロのもとでスペシャルオリンピックス(障がいのある人たちのオリンピック)を支援する演奏にお誘いを受けるチャンスに恵まれました。毎週の活動を続けていたらその上さらにそのようなお誘いに乗ることもできなかったでしょう。

演奏する以上、プロもアマチュアも垣根を越えて、たとえ「仕事」ではなくても本気で真剣に音楽に向き合いたい。自分にできる限りの力を磨いてより質の高い音を求めたい。
でも、単に素晴らしい指揮者のもとで高いレベルのいい演奏に参加したいからだけではありませんでした。

それは、障がいのある人とも「音楽のバリアフリー」を、震災後は「がんばろう日本」…そんな「音楽の力」を活かすテーマのある活動です。
このあたりについては「コバケン先生との出逢い」をはじめこれまで折に触れて書いてきたとおりです。


◆感動の共有とエネルギーの循環

もともとクラシック音楽がお好きで、自分でチケットを探して購入して聴きに行く方も多くいらっしゃいます。そういうクラシックファンが私たちの演奏を聴いてくださって評価してくださることももちろん嬉しいです。

でも一方、ふだんあまりクラシック音楽に縁がなく、決して曲についても詳しくない方、あるいは音楽は好きでも長らく生の演奏から遠ざかっていた方が、私という人間を知ったことをきっかけに生のオーケストラをお聴きになり、なんらかの感動を味わっていただけたら、こんな幸せなことはありません。
天候が悪くても、逆に素晴らしい行楽日和に恵まれても、友達からの誘いも断ってコンサート会場に足を向けてくださるというのは本当にありがたく嬉しいものです。

さらに自分の友人・知人のみならず、自分たちもさまざまな日常もある中で、決して裕福でお金も時間も有り余っている人たちが自分だけの「道楽」として演奏しているのではない、ということを伝えたいのです。

決してプロではないけれども、逆に仕事じゃない(=お金をいただいているわけじゃない、義務もない)からこそ本気でやらなければ成り立たない世界。日常の大変なしがらみや人によっては何らかの病いやハンディを克服しながら音楽に向き合っている方たち(音楽の仲間たち)が大勢います。素晴らしい世界です。

社会の中には、音楽の喜びをあまり知らないで忙しい日々に疲れきってしまっている方、自分の青春はもうはるか遠くになってしまったと感じている方、障がいをもっていたり生きる勇気を失いかけている方、身体が思うように動けなくて外出する機会も少なくなってしまっている方、…etc.
もしそこに「音楽の力」があったら…?



せっかく練習を積み重ねて演奏する機会があるなら、ひとりでも多くの人に音楽で伝えたい。アマチュアの演奏会でも客席がせめてもっと埋まってくれたら…と感じることは多々あります。 

とはいっても、ただでさえ大変なアマチュアオケの運営に、さらに輪をかけて広報・渉外といった面からの観客動員まで新たな「仕事」として負担に思うと大変ですね。

でも決してそんな大げさなことではなく、ちょっと早めにチラシを多めに印刷して学校や福祉施設に案内する、ということでもいいと思います。
できれば行政とタイアップしたり、福祉施設や地域の行事などに演奏を依頼を受けるようになれたらいいですが、そこはそれぞれの団体のできたいきさつやつながりの中で、無理のないスタイルで良いと思います。

「自分たちが楽しく演奏できればいい」、友達や家族だけに案内する内々の「発表会」に近い発想から一歩踏み出して、「音楽の力を一人でも多くの人に」という社会に開かれた発想を一人一人の演奏者たちが気持ちのどこかに持てるかどうかが大切だと思うのです。 そういう発想をもつことで、音楽を続けたいと思う気持ち、よりよい演奏に向けて腕を磨こうというモチベーションにもつながるでしょう。

忙しい日常やさまざまなハンディを乗り越えて「音楽の力」の恩恵を受けている私たちアマチュアは、ひとりひとりが「音楽の伝道者」だと思うのです。
無理なくできる範囲で構わないので、自分たちの楽しみだけでなく、「音楽の力」を少しでも社会に還元していけたら素晴らしいですね。管弦(かんげん)楽団というぐらいですから(笑)

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Re: No title

鍵コメ・りーさん

お久しぶりです!
この内容なら、公開コメントで全く問題ないのに…

音楽をはじめるきっかけも人それぞれですが、聴き方もそれぞれ。
ただ、「自分のためだけじゃなく」という視点は何ごとにも必要なんじゃないかと思います。
オケとしての観客動員のあり方についていきなり切り出すつもりではありませんが、多くのアマチュアがあちこちでコンサートをやっていますが、観客席はけっこうガラガラということも…

せっかく音楽をやる、それも半年・1年かけてそれなりに努力を積み重ねてきたのならばなおさら、一人でも多くの人に聴いていただく、ということは大切だと思うんです。
プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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