12の脳神経系統 ~手と口に集まる繊細な感覚~

はじめに

私は理系出身でもなく、まして医学にはド素人。専門用語をいきなり理解もせずに暗記することは到底不可能だし、ただ覚えるだけでは意味もない。
しかし、ヒトの身体の動き、五感を司る脳の働きには神秘を感じてきた。こと音楽を聴く・歌う・楽器を演奏することに関わることにはものすごく複雑な要素が絡んでいると思う。
「音楽心理・神経学」の講義から、私なりに理解し感じたことを中心にまとめさせていただきます。


12の脳神経(CN)

脳から全身へと張り巡らされている脳神経(Cranial Nerves)には12の系統がある。
これを覚えるのにゴロ合わせがあるようだ。1~12まで順に「嗅いで・見る・動く・車の・三つの・外・ 顔・きく・舌の・迷う・副・ぜつ(舌下)」…
しかし、ただこの順番を覚えるだけでは何のことか理解できないしあまり意味もない。

<図1>

12対の脳神経・色付

Ⅰは嗅いをかぐ神経、Ⅱは目で見る視神経…とⅫまで並んでいる。この中に「感覚神経」「運動神経」があることに注目。

上の図に水色で囲んだのが「感覚神経」で、「Ⅰ.臭神経」「Ⅱ.視神経」「Ⅷ.聴神経(内耳神経)」の3つは感覚神経が中心で、他の9つはすべて「運動神経」が関係している。「Ⅴ.三叉神経」「Ⅸ.舌咽神経」「Ⅹ.迷走神経」には感覚神経も含まれる。

たしかに「匂いを嗅ぐ、見る、音を聴く」の3つは自分の身体を動かすものではなく「感じる」ことが中心で、それ以外はすべて身体を動かす命令系統とつながっていると思えばよい。

もっとも目・鼻・耳、いずれも異物が入れば痛みを感じるわけだから感覚神経も通っているはずだ。しかしここでは身体の各所の主な役割から「運動神経」と「感覚神経」とに大きく分類して表していると理解する。

ところで、内臓の中には感覚神経の通っていない臓器もある。
私はまだ盲腸炎にかかったことはないが、お腹の中で見れば小さな盲腸の痛みが、お腹全体の激しい痛みとなって感じられると聞く。
腹部には網の目状の神経が張り巡らされていて、一箇所の痛みが全体に連動してお腹全体が痛むような感覚になるようだ。
逆にいうと、肝臓・すい臓・ひ臓…といった個別の臓器には、独自に「痛み」というシグナルを発することができないのである。いたわることなく酷使していると、ある時突然腹部の激しい痛みとなって表れる、ということだろう。


12の神経系統のつながり

さて、これら12の系統が脳から全身にどう通っているのか?

脳の断面のどのあたりからそれぞれの神経系統が出ているか、いわば配電コントロール盤を見るようなに、脳のどの部分が身体のどの部位に対応しているかを図解したもの。かつて大学で学んだ心理学の教材でも見覚えのある図だ。

<図2>

運動野と感覚野(加工)

左に「運動野」、右に「感覚野」が示されているが、実際の脳では運動野として左右、感覚野として左右がある。それを1枚で比較したのがこの図だ。

脳神経が司っている身体の部位を絵で添えてある。見てすぐに気づくのが「手がでかい!」「口がでかい!」ということだ。脳の配電盤の地図で見ると、手と口が異様に大きいのである。

運動野(図の左側)では、「手」にかなり多くのスペースが割かれていることが分かる。指の動きはとても繊細な動きが絡み合って複雑な動きもできるのも頷ける。
一方、感覚野(図の右側)では、指も他の部分に比べると長いが、もっと大きなウエイトを占めているのは、画面の文字は小さくて分かりづらいが右側の「喉」「舌」「上・下あご」といった口まわりである。

私たちの日常においても、たしかに分かるような気がする。
一般に「運動神経」というと、スポーツをやる場合の俊敏な反応の速さや高く飛べるジャンプ力などをイメージするが、「手」や「指」はあらゆることに日常的に使われ、時に非常に繊細な動きを要求されるのだ。楽器を演奏するにも精密な模型を作るにも、手や指はもっとも繊細で微妙な動きをコントロールすることができる。 また、手先をよく動かすことは脳を活性化し、老化防止にも役立つこともうなづける。

さらに次に注目したいのが、喉や舌の動きを司る神経系統だ。ものを食べたり飲んだり、喋ったり歌ったりする働きは口周りに集中している(→この辺りは後述)。

一方「感覚神経」としては、喉・舌・唇周りなどがもっとも敏感であることが分かる。口は食べ物や飲み物を体内に取り込む入口であり、温度・触覚・味覚などのセンサーと言っていい。また口の中に入った異物(歯の隙間に挟まったもの、歯がかけた部分など)を舌先でなぞってみると、実際は1ミリにも満たないような小さなものでも、舌先でなぞる感覚ではかなり大きく感じる。
指先の感覚も敏感だが、舌の感覚はそれ以上に繊細で敏感なのである。


指先と舌先

余談ながら、鉄道模型ではかなり精密な金属部品を使う。真鍮板から切り出して正確な寸法の部品を作らなくてはいけない。

PA063337.jpg PA063336.jpg

寸法通りにけがいて糸鋸で切り出し、ヤスリで磨いて形を整えるが、結果としてちゃんと寸法どおり合っているか、表面がなめらかに仕上がっているか、カーブが左右均等になっているか、2つの金属片を合わせた時に段差がないか、表面はなめらかに仕上げられているか…これらを最終的に確かめるのは「触覚」だ。
指先でなぞってみると、かなり厳密な10分の1ミリの段差や表面のざらつきまではっきりと分かる。

また、指先よりもさらに敏感なのは舌である。模型の小さな部品でも、揃えて舌先でなぞってみると、本当にごくわずかの段差でも感じ取ることができる。
模型を作らない人でも、歯医者さんに行った経験はあるだろう。腕のいい歯科医が歯に詰め物をして磨いてくれるが、最終的には患者が実際にかみ合わせてみたり治療した箇所を舌先でなぞってみて違和感がないかどうかを確かめる。
これほどまでに触感に敏感な部分は身体のほかの部分にはない。


◆口・喉・舌の絶妙な働き

最初の<図1>を参考に、口の周辺の働きを司っている神経を見てみる。

喉の奥で気管と食道とを使い分けるには喉頭筋の働きが重要で、これを司っているのは「Ⅸ.舌咽神経」。
声帯を振動させる働きを司っているのは「Ⅹ.迷走神経」。
発音する音に応じて舌の動きを微妙にコントロールしているのは「Ⅻ.舌下神経」。
さらに発音する音によっては、唇の動きも重要になってくる。これを司っているのは「Ⅶ.顔面神経」。

いくつもの神経系統と筋肉の働きが組み合わされて、ものを食べたり飲み込んだり、飲み込む瞬間には気道を塞いだり、声(音声)を発したり、その音声を正確な言葉として発音できるよう喉・舌・唇を微妙にコントロールしているのである。


◆「パ・タ・カ」…3つの発音に異なる神経系統

「パ」…いったん閉じた唇を勢いよく開けて発音…Ⅶ.顔面神経
「タ」…舌の先を上あごに当てて放しながら発音…Ⅻ.舌下神経
「カ」…いったん閉じた喉の奥を開放して発音 …Ⅸ.舌咽神経

同じことばでも、発音によって使う神経系が複雑に絡み合っている。
上の3つの「パ・タ・カ」を発音させてみると、合計3つの神経系統が正常であることが確認できる。
さらに上のどの音を発音するにも声帯の動きが伴わなければならない。声帯の動きを司っているのは「Ⅹ.迷走神経」であるから、合計4つの神経系統が正常でないと「パ・タ・カ」という発音はできないのである。


まとめ

専門的な分野ではあるが、この講義を通じて毎回思うのは、人間の身体の機能(感覚と運動)は実に複雑な要素が絡み合ってできているということ。

言葉がうまく喋れない・手足の動きが鈍くなるといった異常も、身体のその部位の機能的な問題である場合もあるが、その部位を動かす命令系統(運動神経)、あるいは痛みや違和感を感じる感覚神経の異常、すなわち脳の機能になんらかの異常が生じている可能性もある、ということを忘れてはならない。
脳に何らかの欠損や異常のある人は、身体の動きや感覚にどういう変化が生じるのか、ということを理解することへも通じていくだろう。

また音楽を演奏する場合、手や喉の動きはとても微妙にコントロールされているわけだが、練習を積み重ねて訓練することで上達するのは、指先の運動をコントロールする脳からの運動神経によるところが大きいことになる。指先の機能の問題よりも脳の問題。さらに脳は手の動きだけでなく、内なる感性、音に対する感覚へもつながっているはずだ。



考えてみれば、どんな生物でもはじめはたったひとつの受精卵(=ひとつの細胞)から2つに・4つに・8つに…と分裂を繰り返して各器官が発生して一個の生命体ができていく。
分裂してまったく同じ細胞が2つに分かれるのではなく、ひとつひとつの細胞がそれぞれ役割を持って発達していくのだ。
あるものは骨の一部になり、あるものは臓器の一部となり、あるものは血液となり、あるものは筋肉に、あるものは神経に、そしてそれらをコントロールしている脳細胞に…

これは素晴らしい神秘だ!

「オレは頼んで生まれたんじゃない、生まれたくて生まれてきたんじゃない」などいう言葉は、間違っても発してはいけないのだ。
せっかく備わった身体の機能、身体を動かせたり感じること、思考回路…そのどれをとっても、人工的に作り出された最先端技術も及ばない。
他の人と比較して、ちょっと何かが違うと優劣をつけたり、自分を卑下して投げやりに扱ってはいけない。「五感」をもっともっと大切に使って生きなくてはいけない。



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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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