♪ テンポ と ニュアンス

◆ 「曲の速さ」と 「音楽としてのニュアンス」

ブルックナーの交響曲9番の練習に参加していて、興味深いことに出会いました。

全体としてゆったりしたテンポの1楽章の中にときどき「Langsam」という表示が出てきます。ドイツ語で「ゆっくりと、遅く」という意味です。
そこで指揮者が、それまで2つ振り(1小節を大きく2つで振ること)で来たのを、「Langsam」のところで4つ振り(=4拍子の図形で1小節を4つに刻んで振る)にしようとしました。
一般にゆったりしたテンポの曲では、指揮が細かく刻んだ方が裏拍から出る人にも指示が出しやすいように思えるのです。

しかしプロもアマチュアも混じったかなり優秀なメンバーにもかかわらず、弦楽器はかえって弾きづらそうでうまく合いませんでした。むしろ2つ振りの方が皆さん“音楽の流れ”を体で感じやすかったようで、しっくりと合いました。

これは、「曲としてのテンポ」と「音楽としてのニュアンス」との奥深いテーマだと思います。

ゆったりしたテンポの曲の中でも、踏みしめるようにさらにゆっくりになる場面、やや流に乗って動く場面、駆け込むように速くなっていく場面などが出てきます。
CDだけを聴いていても、そこで指揮者が4つで振っているのか2つで振っているのかは当然ながら見えません。その曲のその場面ではどっちで振るのが常識か、という経験的なこともありますが、なんとなく曲の流れ・ニュアンスから指揮者が今どう振っているのかを想像して感じ取るしかありません。

でも実際の演奏では指揮者がどう振るかによって、演奏する側からの見やすさ・感じやすさ・弾きやすさも、また客席で聴いている聴衆の感じ方も、指揮者が大きく2つで振ればそういう音楽に、4つに刻めばそういう音楽に聴こえてくるから不思議ですね。
2つに感じればそういう音楽に、4つに感じればそういう音楽に聴こえてくるのです。


◆ 「速度」よりも音楽としてのニュアンスを!

これは私の解釈ですが、先ほどの「Langsam」は、LargoやAdagioなどのような速度の指示とはちょっとニュアンスが異なります。それまで流れてきた音楽の流れよりもややゆったりと、踏みしめるように、丁寧に…といったニュアンスです。

交通標識にたとえるなら、その道路を時速何キロ以内で走りなさいという「速度規制」ではなく、「徐行」を命じているようなものだと思えばいいかもしれません。

車の「徐行」は、それまでのスピードの流れを引いていてはいけないのですが、音楽の場合、それまでの流れとまったく切り離された「まったく別物の遅い音楽」になってはいけないと思うのです。

つまり、テンポとしてはゆったりと遅くなっても、決して停滞した音楽になってはいけない。
川の流れのように、場面ごとによどんだり、揺らいだり、す~っと流れたり、さまざまな表情を見せながらも、全体としてはひとつの流れとして脈々とつながっていなくてはいけない。
とくにブルックナーの音楽はその典型かもしれません。

裏返せば、「遅く」とか「速く」という速度の問題だけではなく、音楽そのもののニュアンスがなくてはいけない、ということです。


速度記号に隠されたニュアンス

遅いテンポのニュアンスはとても難しいので、反対に速いテンポで見てみると…

Allegro、 Presto、 Vivace …
2つを比較して「どっちの方が速いか?」「メトロノーム記号では1分にいくつビートを打つテンポを指すか?」といった音楽の問題にもなりそうですが、私がここで言いたいのは、
「テンポ(速度)は必ずしも絶対的なものではないのではないか?」ということなんです。

そもそも「Andante =歩くような速さで」と言われてもなんとも抽象的ですね。歩き方にも色々あるんです。そのAndanteにちょっと毛の生えた程度のAllegroもあり得ます。
でも、Allegroには何らかのAllegroらしいニュアンスはあるのではないかと思うのです。

たとえばベートーヴェンの交響曲5番「運命」の最終楽章などは、ややゆったりしたテンポで演奏されることもありますが、やはりAllegroの音楽でなくてはいけない、ということです。

Allegroであっても「決してせっつかれたように焦らずに、あまり速くしすぎないで」という意味の「non troppo」が後についた表示もあります。
また「堂々と、荘厳に」(maestoso)はAndanteの後につくことが多いですが、Allegroの後につくこともあります。また「力を込めて」(con brio)という表示がつくこともあります。

いずれもAllegroだからと言って必ずしもシャカリキに速く演奏しなくてはいけない、ではないということです。

ついでながら、Vivace(ヴィヴァーチェ)は、イタリア語で「生きる」という意味の「vivere」(スペイン語のvivirと同じ)から来ていて、「活発な、いきいきとした」という意味です。たんに機械的に速いだけでなく、生き生き(活き活き)としたニュアンスがないといけないのです。「Allegro vivace」のように複合して用いられることもありますから、必ずしも「vivace」は速度を指定するものではなく、音楽としてのニュアンスを表す語だと思います。

「Presto」も音楽用語としては「Allegroよりも速く」。なんとも曖昧ではありますが、速度を指定した用語のようにも受けとれます。
でも、イタリア語の本来の意味としては「急速に、直ちに、より速く」といった意味。
私は「さらに速度を増して」ぐらいにとらえておいた方がよいと思っています。曲のクライマックスなどでさらに加速する感覚、湧いてくるエネルギー感が欲しいわけです。 

みなさんはこのあたり、どう思われますでしょうか?


おわりに

真面目な音楽用語にお疲れになったところで、最後にまたしても私の悪い癖。
これさえ出さなきゃ真面目に終われるのに…(苦笑)

だいぶ前に「★パウゼ」に載せたくだらな~いジョーク画像をふたたび掘り起こして…

2011060800142516e_20120606015556.jpg

北の海で大変な苦労をされて収穫されている方には申し訳ないですが、サイトで見つけた画像にこんなセリフを重ねただけで、なんだか「昆布の密猟」のように見えてきませんか?
失礼いたしました!


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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

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