右?左?…の感覚

夕方の首都圏の番組で、自動車の運転でアクセルとブレーキを踏み間違える事故の話題が登場しました。

いまや主流となったオートマチック車では、アクセルとブレーキの2つのペダルしかありません。その左右をとっさに踏み間違えることが原因とみられる事故が、高齢者だけでなく若年層の間でも増えているというのです。

そういえば私の亡き母(昭和4年生まれ)は、生前「車の運転は絶対にしない」と公言していました。機械に弱く、どうしても右と左を間違えるから車なんて怖くて運転できない、というのです。 
しかしその母が、ピアノのペダルを左右踏み間違えたことは一度もありませんでした。



よくメカに弱いとおっしゃる女性に多い傾向かもしれませんが、車の教習所でも「右のアクセル」「左のブレーキ」などと言いながら「覚えよう」としている方がいるようですが、そういう覚え方は危険だと私は思います。

機械のイメージをもって、身体で覚える のです!

水道の蛇口をひねるのに「右回しだっけ? 左回しだっけ?」なんて考えて回しませんよね?
焼肉屋さんのガスコンロの火を少し弱めたい・強めたい時に、色んなタイプがありますから正直迷いますが(笑)、水道の蛇口は世界共通のネジと同様、左に回せばゆるんで水が出ます。「右」とか「左」という認識などなしに、ほこりが目に入って早く水で洗いたい時など、とっさに手さぐりでもできるでしょう。

楽器の演奏は、もし仮に間違えても命に影響することはあまりありません。
でも、頭で分かっているのと実際にとっさの状況で身体が正しく動いてくれるかどうか、というあたり、車の運転とよく似てると思います。

少なくとも、音に対するイメージができていたら、ピアノでも木琴でも、高い音が出てきたら自然と右に、低い音が出てきたら左へと手が自然に行くでしょう。
弦楽器で高い音が出てきたら自然と弦を短くおさえる方へ、低い音が出てきたら遠くへ…と。

決して右か・左か、上の方か・下の方か…などと考える隙もなく、自然と手がそっちへと行くはずです。それがまさに イメージと結びついた身体の感覚 です。
車のアクセルやブレーキもそれに近い感覚を持てれば、どんな状況でも踏み間違えることはないはずです。


各ペダルのイメージを持とう!

車のアクセル、ブレーキ、クラッチはそれぞれ全く違う役割で、踏んだ時の感覚もまるで違います。右とか左ではなく、それぞれのメカのイメージを持つことが大切です!


アクセル 

一番右のアクセルペダルは、ペタンコな板のような形をしていて、踏込むのに大して力は要りません。あれを踏むことで、エンジンに取り入れられる空気と燃料の量が増加し、エンジンの回転数が上がります。ギアを入れていない状態で停車中の車で、アクセルを踏み込むとエンジン音が高まります。空ぶかしになるのであまりやりすぎてはいけませんが、その感覚を覚えましょう。

音楽用語で「accel.(アッチェレランド)」というのがありますが「速度を上げる、加速する」という意味ですね。アクセルペダルはエンジンの回転数を上げるためのペダルなんです。


ブレーキ

これは自転車やバイクと同様、車輪の回転を止めるための摩擦装置です。ギュッと力を加えて踏み込んでやる感覚が足の裏に伝わってくるはず。
暗いガレージで止まっている車のブレーキペダルをギュッと踏み込んでやると、後ろのブレーキランプが赤く点滅しているのがサイドミラーに映ってわかるはずです。

オートマチック車では左足は全く使わずに、右足でアクセルとブレーキを踏み分けるのが一般的ですが、場合によっては遊んでる左足でブレーキペダルを踏んでもいいんです。
ただし、マニュアル車の経験のある人がついうっかりクラッチペダルの感覚で思いっきり踏み込むと、急ブレーキにまず自分がびっくりしますが(笑)、慣れるとじんわり踏めるようになり、疲れたときなどに左右の足で運転できて楽ですよ!

右足で踏もうが左足で踏もうが、とにかくブレーキペダルはアクセルとは役割も踏んだ時の感覚もまったく違うはずです。



車の原理をイメージしよう

クラッチ ペダル

オートマチック車にはないペダルですが、車のメカを知ってイメージを膨らませる上ではとても大切なものだと思います。
もともと障害者が片足でも運転できるように開発されたのがオートマチック車。いわゆる「ノークラッチ車」とも言われました。

クラッチ板とは、エンジンの回転を車のシャフトに伝える円盤状のパーツです。スプリングの力で両者はしっかりと接しています。それを一時的に外す(=離す)ための装置がクラッチペダルです。
踏み込むのはある程度重く、離すとスプリングの力で戻ってきます。アクセルやブレーキとは全く感覚が違います。

エンジンはいったん始動したら一定の速さで回転し続けます(アクセルを踏み込めば回転数が上がります)。
この状態のままエンジンの回転が車のシャフトに直結していたら、車はエンジンをかけたままの状態で止まったり走ったりすることはできません。
 
一定の速さで回り続けるエンジンの回転を、止まってる車を始動させる時には“大きな力”として伝え、ある程度走り出したら“速い回転”として伝えたい。そしてバックする時は逆転方向にも回転を伝えなくてはいけません。


●車は本来左右の足のバランスで運転するもの

このように、常に同じ方向に一定の速さで回転しているエンジンの動きを、状況に応じて、いろんなギアにつなぎかえるためにクラッチ板は可動式になっているのです。クラッチペダルを踏み込んでエンジンの回転板をいったんシャフト側から切り離し(=空回り状態にし)、その間に必要に応じたギアにチェンジして、ふたたびクラッチ板を繋いでやることで、車に多様な動きを与えることができるのです。

止まっている車を最初に動かしはじめる時は大きな力が要りますから、ロウギア(=同じエンジンの1回転を小さな回転板に伝えることで、テコの原理で“大きな力“として伝える)にします。エンジンの回転を充分にあげながらゆっくり優しく繋がなくてはいけません。クラッチペダルを上げてくると、離れていたクラッチ板が接触しはじめて軸に回転を伝え始めようとするポイントがあります。そこが「半クラッチ」です。

エンジンの回転が足りなかったり、いきなりクラッチを繋いでエンジンの回転を急激に妨げるような力が加わると、ガクンとエンスト(=エンジンストップ)してしまいます。今のオートマチックではエンストという言葉そのものが死語かもしれませんね(笑)。

上りの坂での発進にはさらに注意が必要。サイドブレーキ(フットブレーキでもできればもちろんOK)で車が坂をずり落ちないようにしっかり止め、クラッチをいっぱいに踏み込んでギアはロウに入れます。この状態で右足でアクセルペダルを踏みこんでエンジンの回転力を充分にあげながら、左足のクラッチペダルを静かに上げてくると、エンジン音が少し静かに変わって左足の裏にムズムズっとくるポイントがあります。その半クラッチのタイミングに合わせてブレーキを解除してやると車は静かに動き出します。

このように、右足のアクセルでエンジンの回転数を上げながら、左足でクラッチを繋げたり切り離したりしながらギアをチェンジ。
止まった状態からロウギアで車を動かし、アクセルで加速したら緩め、クラッチを踏み込んでセカンド、サード、トップ(さらに5速)へと…
 
さらに長い坂道を下るときにはギア比を大きくしてやる(=低いギアに入れてやる)ことで、車が転がっていく力をエンジンの一定の速度で抑えてやる(=エンジンブレーキといいます)のが有効です。ブレーキを多用しすぎて摩耗を早めたりオーバーヒートさせることなく、適切なギア選択とエンジンの重さのバランスだけである程度車の加速をコントロールできるのです。
ブレーキは後続の車に追突されないように、ブレーキランプを点灯させるために時々警告のために軽く踏む程度です。 

車は本来このように、アクセルペダルとクラッチペダルのコンビネーションで運転し、真ん中のブレーキペダルで(車輪を制御して)止める、という構造に作られているのです。

クラッチのついたマニュアル車は私も大好きですが、信号待ちや渋滞の多い都会ではけっこう面倒で疲れます。また坂道発進も後ろに車列があると最初のころは本当に怖かった。
渋滞の中でそろりそろり走行でずっと半クラッチ状態を保ちすぎて左足の筋肉がパンパンになってしまったり…
でもそんな中でいつしか エンジンの回転&車輪に伝わる回転小さな力&大きな力、いま車にはどんな力が加わっているのか…といった感覚・イメージが知らず知らずのうちに身体にしみついてくれたように思います。

そういう感覚がオートマチック車ではどうしても乏しく、「右のペダル? 左のペダル?」という覚え方をされてしまうのかもしれませんね。



教習の基本はマニュアル車から!

最近の教習所では、いきなりオートマチック車で教習している所も多いのではないでしょうか?

たしかにオートマチック車は運転は楽ですし、今や自家用車のほとんどはオートマチックですから、誰でも簡単に免許が取得できるように、はじめからオートマチック車で教習する(またはオートマ車専用のコースとして設けられている)こともあるようですが、それが車・メカへのイメージを乏しくしているのではないかと私には思えるのです。

右・左という概念で覚えただけのことは、誰でもとっさのときに間違えるでしょう。
左右を間違える人間の能力に問題があるのではなく、機械(車)に対するイメージがしっかり描けていないことが問題であり、いざという時に危険なのです。

教習所では多少苦労しても、全車マニュアルでしっかり車の構造についてイメージを持っていただきたいですね。そして仮免ぐらいからオートマチック車の感覚にも慣れてもらい、マイカーではオートマチック車に乗れば運転が楽だと感じるはずです。

私の母がピアノのペダルの左右を間違えなかったように、そのペダルの働きさえしっかり体に入っていたら、どんなとっさの時も間違えることはそうそうないはずです。


<余談>

両親が車を持たない主義だったので、大学を卒業してから自分で教習所に通いました。

それも勤めていた民間の研究所が経営難になって給料も出なくなった残務整理のどさくさに紛れて教習所通い。朝講義・夜教習。翌週は逆に朝教習・夜講義。
アマチュアで打楽器なんぞをやっていると、どうしても車が必要なこともあり、中古車を自分で買ってしばらく愛用しました。今でもその当時の愛車が夢に出てきます。

初期のころ小さな接触は当然ながらありましたが、とにかく安全運転でこれまで無事故無違反。一度誕生日の書き換えを逃してますが、ゴールド免許になってかれこれ20年以上になります!
今は自家用車は持たず、もっぱら北海道などの広いところへ着いてからレンタカー専門。

そんな私も、カナダでレンタカーを借りたときの失敗談を披露しちゃいましょう。

日本の車と違ってサイドブレーキは足で踏むタイプ。どうやったら解除できるのかわからず、ユースホステルのおばさんが「私についてらっしゃい」と言って発進したのについて発車したいのに、どうやったらサイドブレーキが解除できるの?…と焦りました。

また右側通行・左ハンドルにもすぐに慣れますが、それは広々とした一本道のハイうウェイでの話。 街中に入って右折・左折しようとする瞬間、ついうっかり反対車線に飛び込みそうに! とくに左折は日本人はどうしても甘く見がちですから、国際免許でお出かけの方はくれぐれもご用心を!
それと、笑うに笑えないのが、方向指示灯を出すつもりで、ワイパーが乾いたフロントガラスをグィーン!…「あぁ、またやっちゃったよ!」



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2つペダル

マニュアルしか教習所に無い頃、それも30代になってから、免許を取りました。
始める前に、何十時間も予約が取れるシステムだったのですが、係りの人が、私の年齢と顔を見て「あと10時間、いや20時間、余分に取っておきましょう」と言ったのが、ムカッときました。
結局、最低+2時間で取れたのですが、クラッチとアクセルの使い方が簡単だったからなのです。
ピアノを弾く人は、たぶん納得してくれると思うのですが、半ペダルの具合が、半クラッチと同じなのですよね。
せっかく、マニュアルで取れた免許ですが、私用の車がオートマ車で、その活用の時もなく、半クラッチの具合もすっかり忘れました。最近は、車に乗る機会もなく、免許もただの身分証明書になっています。

Re: 2つペダル

ははは、ハーフペダルはたしかに右足でやる半クラッチみたいなもんですね~
そうなんです、そういうイメージが感覚と一緒になることが大切なんですよね!
プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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