「こびヘツライ語」を斬る!

せっかくの海外旅行で、ホテルのラウンジでくつろいでいるところに、どこかの団体ツアーのコンダクターがやってきて…

「はい、こちらの方ですね、これから自由行動となりましてですね、お土産の方ですね、ごゆっくり選んでいただければと。それでですね、次の集合時間の方はですね、〇時となっておりましてですね、こちら正面玄関の方にですね…」

「うるさい! もういい加減にしてくれ!」
私はそのヘンな日本語の聞こえない場所へとさっさと移動する。最近、営業マンをはじめとするサービス業の人に多いしゃべり方だ。

「~でですね」、「~~の方」、「~~となっております」
私はこれを 3大 媚(こび) ヘツライ語と呼んでいる。

意味もない水増し言葉によって、ハエのごとく手をすりごまをすり…本人は丁寧に喋ろうとしているつもりなのかもしれないが、いったい何なんだ、あれは?
聞いててイライラしてくるのはなぜなのか?…そのあたりを、言葉の発生ルーツを考えながら私なりに分析してみた。


『ヘツライ語』の深層を斬る!


1.「~ですね」

丁寧語の「です」+優しさ・同意の「ね」。自分が相手に同意したり、相手に同意を求める言葉である。
「(そう)ですね」と相槌をうったり、文章の中でたまに「~~ですね」が入るのは本来の日本語の使い方として正しいが、文節ごとにいちいち「ですね、でですね」と連発されるのはちょっと異常である。
これがもう口癖のようになってしまっている人が実際にいらっしゃる。その心は…?

相手(お客さま)に対して敵意がないことを示し、自分をへりくだり、相手に同意を求め、やわらかく聴こえるように、そして相手に割り込むスキを与えないように…そんな心理が働いているようだ。

1980年代前半、ちょうど私が就職した頃から、営業マンをはじめとするサービス業の人たちが、電話や打合せでこれをやたら連発しているのが気になった。 今でも打合せのテーブルにつくと業者さんが開口一番に「それでですね…」と切り出すのをよく耳にする。英語には訳しようのない言葉だ(笑)

営業マンに限らず、学生の研究発表でも自己紹介のスピーチでも、「ですが~、まして~、けれども~」と文章が切れずに繋がっていく傾向がある。
きっぱりと言い切って文章を切ると突っ込まれて話を中断されたり、反論を受けそうで怖いのかもしれない。


2.「~の方」

「〇〇の方が背が高い」など、比較・対比の意味で用いられることもある。気象情報で、天気図・気圧配置・天気と話題が進んできて「つぎに気温の方を見てみましょう」。これは違和感なく聞ける使われ方だ。

次が問題の用例。「あなたはどこから来ましたか?」と尋ねられて、「駅から来ました」と答えるのと、「駅の方から来ました」とではどうニュアンスが変わるだろう?

ひところ流行った怪しい消火器販売員の「消防署の方から来ました」と同様、「駅の方から来ました」という場合、必ずしも駅を利用したり通ってきたとは限らず、「駅のある方角から歩いてきた」というあいまいな意味になる。もし警察官に職務質問されて答える場合、駅に立ち寄ったのかどうかが重要な違いにもなってくるはずだ。
消火器の販売員が「消防署から来ました」と言ったら嘘になり、信用されて売れれば詐欺罪が成立するが、「消防署の方から来ました」なら逃れられる。あいまい語の逃げ効果に「技あり!」だ!

「きのう長野の方に行ってきました」と言うと、厳密に長野市あるいは長野県内でなくても、中央線に乗って行く「長野方面」であれば広く使える。

レクチャーする講師が、「はい、黒板を見て下さい」と言うととても厳しく聞こえるが、「はい、黒板の方を見て下さい」と言うと、柔らかい印象になる。 それは「見て下さい」とお願いする(=命令する)ポイントを「黒板」に限定せず、黒板のある方、つまり「顔を上げて前を見て下さい」とぼかすからではなかろうか?



これらの例から分かる通り、「の方」をつけることで厳密なポイントに限定することを避け、あいまいにぼかす効果がある。 このあいまい・ぼかし表現こそ、丁寧語モドキになりやすいのではないかと思う。

「友達とかと一緒に~」などとよく若い人が言うが、「じゃ、友達以外になら誰となんだ!」と突っ込んでも意味がない。なんとなく当たりを柔らかくするために無意識のうちに多用される「とか」「たり」「みたいな」…と同じく、曖昧なぼかし表現の一種なのだ。

ぼかす →限定を避ける →柔らかくなる →『丁寧語モドキ』のごまかし表現 …ついつい安易に使い過ぎてはいないだろうか?



3.「~なります」「なっております」

①「なる(become)」は本来、なんらかの状態の変化を表す

青虫(幼虫)がサナギになり、やがて羽化して蝶になる。生物が姿を変える(=変態)のがその代表だろう。

しかしレストランで「こちらメニューになります」や「こちらハンバーグになります」という店員さんも、まさか「じっと見ているとハンバーグに変化していきます」という意味では使っていないはず。

では、やたらと登場する「なります」「なっております」はいったいどこから派生したのだろうか?

「ある役割を担っている」「そういう構造で(設定で)作られている」

山の上にモダンアートのような建造物があったとする。地元の人から「あれは街のシンボルで、中に人が入れるようになっていて、一番上は展望台になっています」と言われれば、「へぇそうなのか~、なるほど~」となる。

しかし、それを分かってて展望料金を払ってチケットを買い、エレベーターに乗っていよいよ展望台に着くという時に、「はい、こちらの方、展望台となります(なっております)」と言われると、「分かってるよ、だからわざわざお金を払って登ってきてるんじゃないか!」と(笑)。



鉄道好きなオーナーがやっているカレー屋さんではちょっと趣向を凝らして、乗車券のような券を買うとそれが「食券」になっている(=その店ではそういう設定になっている)。それならば「こちらが食券となっております」も分かる。

しかしファミリーレストランで、明らかにメニューにしか見えない冊子を出されて「こちらメニューとなります(なっております)」。「こちら、ハンバーグになります」…じっと見てるとハンバーグになっていくんかい!?

おそらく、コース料理が順番に出てくるような場面で、「こちらが前菜となっております」「こちらが本日のメインディッシュになります」「こちらがデザートになります」といった表現があったのだろう。どうもそのあたりから流用されたのではないかと思う。

店としてはそういうルールになっている、設定されている、という意味で用いられる「なります」「なっております」が形骸化して、メニューにも単品のハンバーグにも「なります」がつくようになった…?

しかし後に書くように、単に言葉が形骸化しただけでなく、その背景に「私が勝手に決めたことじゃないんです。この店ではそういうルール・設定になっているんです。当店ではこれをハンバーグとしてお出ししてるんです」といった、「決まってしまっている」ことを前面に出して「個」として責められないようにする「言い訳」「責任回避」の匂いを私は感じるのだ。



ルールの告知、「 警察官、お前もか!?」
  
「こちらは禁煙です」と言いきってしまえばいいところを、わざわざ「こちらは禁煙となっております」と言う表現が最近多くなった。
 「~~です」ときっぱり言い切るのに比べて文字数も増えて、一見丁寧な言い方のような印象も受ける。

しかし、告知をしている人(個人)が「~~です」と明言することを避け、言外に「私がそう決めて言っているのでなく、そういうルールで決められてしまってるんです。だからどうか私を責めないでください。ご理解・ご協力をお願いします。」といった、「個としての責任回避・言い訳」のような匂いを私は感じてしまうのである。 

花火大会などで混雑しているところで交通規制が敷かれ、交通整理にあたる警察官にまで「本日、この通りは侵入禁止となっております」、「はい、こちら橋の方、立ち止まり禁止となっております」などと連発されると、「ん?、ついに警察官まで草食系の営業マンみたいになってしまったのか?」…と(笑)


良いサービスに自信をもって! ヘツライ語は聞きたくない!

ファミリーレストランの店員さんが言う「こちらハンバーグになります」も、さきほど書いたようなコース料理の説明のような意味はなく形骸化し、単品としてのハンバーグにまで「ハンバーグになります」と言っているあたり、ひょっとすると…

「あのぉ、もっと本格的な洋食専門店では『こんなのはハンバーグじゃない!』とお叱りを受けるかもしれないんですけどぉ、当店ではこちらの方がハンバーグということになっておりましてぇ…お願いだから文句を言わないでくださいね。私を責めないでくださいね」…と(笑)。

無意識のうちに防衛ラインを築いているような、なんとも腰の引けた丁寧語モドキの『ヘツライ語』に聞こえるのだ。

このように『ヘツライ語』は、あまり意味のない文字をやたらと水増しすることによって、なんとなく丁寧な言い回しになったように錯覚するが、曖昧にぼかす表現、限定を避ける表現、さらに自分の言葉・責任において明言することを避け、無意識のうちに「防衛」と「逃げ」で身を固めようとする深層心理の表れではなかろうか?

美味しい食事を期待して入ったレストランで、「こちらの方、メニューとなっております」「こちらステーキになります」なんて来られるとガッカリして食欲がなくなる。

「私には決められたこと・言われたことしかできないんです」 と言い訳で身を固め、しかもそれらをきわめて形式的・機械的にタテ板に水のごとくペラペラと浴びせられると無性にイライラしてくるのは、どうやらそのあたりに原因があるのかもしれない。

「お前らヘツライ語で身を固めたアルマジロか!?」…と(笑)。

きちんとこちら(客)の顔を見て、「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」と迎えていただいた方がよほど気持がいい。

あまりプライドと蘊蓄(うんちく)ばかりで、独りよがりでタカビーなのも困るが、サービスを提供する方たちはもっとご自身のサービス内容を磨いて、自信と誇りをもっていい仕事をして迎えていただきたいものだ。

 「言葉・表現への関心」 参照)

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消火器を売り付ける詐欺師

何処の方から来ましたで思い出したのは「消防署の方から来ました」と言う、
消火器や火災報知器を高額で売り付ける詐欺師です。

何でも「消防署から来ました」だと、100%詐欺ですが、
曖昧にする事で取り調べで言い逃れしようとしたらしいです。

それにしても「こちらがメニューです。」
「千円お預かりします。」のように、しっかり言ってくれないと苛々しますね。

以前「丁度からお預かりします。」と言われた時は、
丁度にからは完全に要らないのでは?と思ってしまいました。

あと「ですね」を連発する店員さんも疲れますね。
「千円からですね」なんて言われると、はい千円ですよと言い返してしまいます(苦笑)

ちなみに、何にでも「ですよ」と付けるのも、
「よ」は強調の作用がある為、キツイ感じになると思います。

例を挙げると切りがないですが、言葉の乱れは気になりますね。

これを聞くとイッパツ幻滅

『ヘブライ語』ならぬ『ヘツライ語』とはすばらしい命名ですね。ブラヴォー!
高木さんが挙げておられた例は、日常茶飯事に聞かされるとイラッとくるのはよくわかります。
僕がここ数年気になっているのが、テレビのインタビューに答える時の有名人(特にスポーツ選手)が「~と思っていますし・・・」という言い方。~と思っている後にも同様に、思っていることを述べるつもりでいるのに、なぜ「し」で変に連結させるのか?この言い方を耳にする度に「あ、僕はこの人のファンにはなれないな」と瞬時に判断してしまいます。(サッカー選手に特に多い気がします)
それにしても、疑問に思うのが、店員として働いていた人がプライベート時にヘツライごに遭遇した時に、イラッとこないのだろうか?ということです。『人のフリ見て~』とはならないのかなぁと。

Re:

ざくろの森さま & ジャッキーさま

さっそくのコメントありがとうございます。消火器のセールスの話は私も頭に浮かんでいました。曖昧語を逆手にとった詐欺商法ですね。けっこう頭いい人だったりして…(笑)
あとコンビニ独特の言い回し。どうしてみんながみんな、なんの違和感も感じることなく(?)同じような喋り方になっていくのでしょうか?

言葉の問題、表現の問題、とかく人の言葉尻を捕えるように思われがちでタブー視されるようなところもありますが、お二方からコメントいただけたのを機に、これからも勇気をもってどんどん言わせていただこうと思います、はい(笑)
とりあえず「ヘツライ語」の第二弾として、追加記事を書きました。この記事の下に来るように日付をちょっと偽造してますが、よろしかったらそちらもお読みください。
プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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