「燃える秋」武満徹

10月9日(日)

今の季節に聴きたい一曲。
「燃える秋」…同じ題名の映画(1979年)のために武満徹さんが作曲された曲です。


https://youtu.be/Ge0RhutCNqg

1曲目の「出会いと亜紀のテーマ」がメインテーマ。
劇中の音楽には、いかにも現代音楽の巨匠・武満徹さんらしい曲もありますが、メインテーマは哀愁を帯びたなじみやすく美しい旋律です。

ハイファイセットの歌でとくに有名になりました。
私がまだ学生の頃ですから、今からもう35年ほど前、懐かしいですね。

ハイファイセット「燃える秋」

https://youtu.be/a-y9K3f5AOA

武満徹さんのオリジナルと、ハイファイセットの歌う「燃える秋」では、メロディラインに若干の違いはありますが…

燃える秋20161011
♪ハイファイセットの歌バージョンで記譜(耳コピ)し、コードと歌詞を書き込みました。



◆映画「燃える秋」 制作の経緯と三越事件

映画「燃える秋」は、当時の三越の岡田茂社長の企画によって、三越から10億円の資金を出して制作されました。
当時の映画界にとっても巨額の制作費に、原作:五木寛之、監督:小林正樹ら一流の人たちが集められました。音楽を担当した武満徹さんもその一人です。

しかし、岡田社長は三越の専属配送業者だった大和運輸(現ヤマトホールディングス)に映画の前売券の購入を強要したことから、大和運輸は三越と絶縁。
ほかにも岡田社長の公私混同・会社の私物化が問題となり、社長解任に発展します(=三越事件)。

この事件を機に、この映画も公開直後に「三越の恥」としてお蔵入りし、その後ソフト化もされていないため、幻の映画となってしまいました。


大ヒットした音楽「燃える秋」

映画公開の前年1978年に「熱帯夜/燃える秋 Gloing Autumn」としてシングルレコードが発売されました。ハイファイセットの女性ボーカル(山本潤子さん)の澄んだ声がとてもこの歌に合っていたと思います。

武満夫人によると生前の武満作品の中でもっともレコードの売り上げが伸びて印税収入が多かったそうです。
この作品によって第2回日本アカデミー賞・最優秀音楽賞を受賞することになりますが、武満氏としては色々と思うところがあったらしく、授賞式でその思いの丈をぶちまけようとするのを司会の宝田明さんに止められたというエピソードもあるそうです。

おそらく、私の想像ですが…

「ノヴェンバー・ステップス」(=1967年に作曲された武満徹の代表作のひとつで、琵琶や尺八など日本の楽器とオーケストラをコラボさせた作品として世界でも高く評価された)など、本来の作曲家としての自身の作品と比べ、これはあくまで映画のための「ビジネス」として書いたもの。

原作の五木寛之さんから「歌詞には英語を入れた方が売れる」と言われるなど、本来の自分の作品としてというより商業ベースの色が濃いものだったのでしょう。
それが大ヒットして受賞…これを後世まで「武満の代表作」のように言われることに、なんとも複雑な思いがあったのかもしれません。

武満氏の作品として、やはり映画音楽として書かれた「怪談」「黒髪」「雪女」の3部作があります。
なんともおどろおどろしくて、これこそ「武満徹の世界!」という感じの曲。なので、「燃える秋」が武満徹さんの作品だと知ったとき(←わりと最近です)、正直ちょっと驚きました。


その時代に愛される音楽

音楽や映画に求められる優れた芸術性と、「売れる」ためのビジネスとのギャップ。

そして「企業メセナ」という言葉で言われますが、企業が文化・芸術に「出資」するとはどういうことなのか…?

このエピソードから、いろいろなことを考えさせられます。

過去の大作曲家たちも、自分の作品が必ずしもその時代の人々に理解され愛されたとは限りません。生活のために大衆受けする曲を書いた作曲家もいました。
その時代の大衆に受け入れられる作品と、本来自分が書きたい作品、何百年も後になってその高い芸術性が評価されることも…

ただ私は、必ずしも何百年のちになってから評価されるものだけが本当に優れた作品で、その時代の大衆に愛されるものが低俗だとは思いません。

その時代の人々の共感を呼び、愛され、親しまれてこそ優れた音楽なのではないでしょうか?
とすると、「高い芸術性」ってなんなんでしょうか…?


喩えですが、ケーキづくりの職人が、自身の腕を磨いてこだわりの作品を作ったら、一般のお店では売れないような高い値段がついてしまうでしょう。それじゃ売れませんね。
生活のため、仕事のためには、1個4~500円のケーキを毎日ある程度の数作らなくてはいけない。

でも、はじめから「売るためのもの」をただ機械的に作ってもだめでしょう。
「あそこのケーキはおいしい」と口コミで人が人を呼ぶには、その職人なりのこだわりと技術が必要です。

「高い芸術性」って、必ずしも何百年も後にならないと評価されないものではなく、その時代に愛されるためにも、それなりに求められるものではないか、と。


<追記>

あらためて何度となく聴き返してみて、なぜこうも切なさがこみ上げてくるメロディなんだろう…と。
メロディラインを見ていて、ひとつ気づいたことが!

上昇する音形のところに、5度の飛躍が何度となく出てくることです。

「燃える秋」冒頭5度上昇

2度(隣の音)、3度、4度…8度(オクターブ)、上昇にもいろいろありますが…
ラーミ、レーラ、ファ―ド、ミーシ♭…最後の「ミーシ♭」だけは減5度ですが、ほかはすべて完全5度です。
完全5度の関係は、音の周波数の比率が2:3、とても調和した特別な関係なんですね。

これをもし…

燃える秋冒頭(5度上昇がなかったら…)20161012

5度の上昇を使わなくても、同じコード進行でメロディを作れなくはありませんが、やはり平板な感じになってしまって、こみ上げてくる感情は弱いように思います。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

武満徹

高木さま、こんにちは

まったくまったくお恥ずかしながら、お陰さまで武満徹に出会うことになりました。今頃・・・。

素晴らしい方からは素晴らしい出会いや気づきの機会がもたらされるものなのですね。

感謝あるのみ。

Re: 武満徹

ありがとうございます。

私も武満徹さんと言うと、記事にも書いたように「ちょっとおどろおどろしい現代曲」というイメージが強かったのですが、最近あらためてこうした映画音楽→歌謡曲の作品もあるのだと知りました。

ちょうどこの記事をアップした時と前後して、日曜朝の「題名のない音楽会」でも武満徹さんの特集をやっていました。
演奏旅行の日程とぶつかってたんですが、友人から教えてもらって再放送を録画予約して観ました。
残念ながらこの「燃える秋」は紹介されませんでしたが…

番組の終わりで流れた「死んだ男の残したものは」…
戦争への不吉な予感も感じる昨今、あらためて心にしみる一曲です。

また、最近よくライブなどでも歌われる機会の多くなった歌に「小さな空」という作品があります。子どもの頃に見た空、叱られて泣いた思い出…とてもほのぼのとした歌です。検索されれば見つかると思います。
プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
このすぐ下の「カテゴリ」から興味のあるテーマごとにクリックして覗いてみてください。
一部パスワードをご存じのメンバーの方のみ閲覧できるページを含みます。

カテゴリ
カウント開始 2011.1.14~
リンク
最新記事
最新コメント
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR