語りと波紋音による「平家物語」

◆今によみがえる「平家物語」の世界


俳優の金子あいさんの語りによる「平家物語」、じつは私もこれまでにも何回か直接お聞きする機会がありましたので、ここにご紹介させていただきます。

平家物語・波紋音20160903

金子さんは、「平家物語」が現代にも通じる強いメッセージを多く含んでいると受け止め、「語り」(…画像のような動きも伴う「語り芝居」)を通じての再現・継承をライフワークとされていらっしゃいます。


「軍記もの」の代表のように習った「平家物語」ですが、その中身は決して手柄話をつづった英雄的な武勇伝でもなければ、平家の繁栄を「万歳」とたたえるサクセスストーリーでもありません。

むしろ、(まつりごと)を誤るとどうなるか、(いくさ)とはいった何のためにしなくてはいけないのか、上からの命令や軍の掟に従って敵を討たなくてはならない生身の人間の悲しみや葛藤

ときに現代のサラリーマンと同じような葛藤であったり、プレッシャーであったり、国の政治のあるべき姿であったり、まさに現代に生きる私たちとも相通じるものがあると。

*「平家物語」についてはこのあと少々書かせていただきます。


◆波紋音(はもん)との出会い

そんな金子あいさんが何年か前に、水琴窟のような音色を奏でる「波紋音」と出会われ、この音色と語りとのコラボで活動を展開されています。

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鉄でできた、中が空洞の半球で、上面の平らな部分に切込みが入っています。

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切込みには長いところと短いところがあり、長いところは振動するバー(=リード状の部分)が長くなり低い音、短いところは高い音が出ます。

切込みと音の高さ

オレンジ色の矢印が長いところ=振幅が長い=低い音
   〃         短いところ=振幅が短い=高い音


とくに12音階の決まった音程に調律されているのではなく、「高さの違う自然な音色」が素朴にある、そんな楽器です。

演奏されているのは、東京芸大の出身で、もともとクラシックから現代音楽など、いわゆる楽譜を再現する世界にいらっしゃった打楽器奏者・永田砂知子さん。

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永田さんとは、私も学生時代からお世話になっている元N響の打楽器首席・百瀬和紀先生のもとで、以前同じ研究会にも参加されていたことを今年の4月に知りました。意外な場での再会です!



最近のテレビドラマや映画では、劇中に使われる音楽がとても多く、とくにメロディを含む音楽でシーンを盛り上げようとすると、音が過剰になりがちで、肝心の語りがかき消されてしまうこともあると永田さんはおっしゃいます。私もまったく同感です。

その点、この「波紋音」の音色は、語りを邪魔することなく聞く人の心に溶け込むように入ってきます。
とくに決まった音程があるわけでなく、人と音との原点のような素朴な感性を刺激してくれます。

木のバチでたたけばいわゆる金属音、柔らかい素材を頭に巻いたマレットで叩けば時にマリンバのような音、時にアフリカのスチールドラムのような音、激しく連打するとどこかインドネシアのガムランのような音、また細身の金属の棒でエッジをこすれば、遠い世界へ誘うような異次元の音…

ときに宇宙的で神秘な音、ときに素朴な自然の音、ときに心臓の高鳴りを象徴する音、祈りにも似た心の内面の音…etc.

その無限大の音色を操って、物語のシーンごとのイメージに合った音が紡ぎ出されます。

もちろん楽譜なんてありません。手元に置かれているのは物語の原文で、それがいわば「台本」。
どこで、どの個体を使って、どんな奏法で、どういう音を、どんなタイミングで入れるかは、すべて奏者の頭の中にあります。

語りの金子さんが前もって伝えるイメージや、平易に文章を読んで(素読みで)描かれるイメージもありますが、やはり状況が目に浮かぶように情感を込めた「語り」になると、より鮮明なイメージが出来上がると言います。

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無限大の表現力を秘めた「波紋音」。テラピーにももちろん、自分自身の安らぎの音としてもぜひそばに置きたく、近々工房をお訪ねし、ちょっとお小遣いを奮発して小さめのものを1つ求めたいと思っています…が、なんと3か月待ちだそうです!



「平家物語」について


「平家物語」は、全12巻・191の章から成る大作ですが、いつ誰の手によって書かれたのか、諸説あって正確なことは判っていません。

原文も「読み本」といわれる系統と「語り本」といわれる系統に大きく2分されますが、さらに壇ノ浦の戦いの後入水したものの源氏によって助けられた建礼門院徳子(出家して京都大原の寂光院に隠居)によって書かれたとされる「灌頂巻」(5章から成る)が加わったものもあります。


◆琵琶法師による語り継ぎ


やはり何といっても有名なのは「琵琶法師」による「語り」による伝承です(そこで弾き語りに用いられる琵琶のことを「平家琵琶」といいます)。
映画もドキュメント番組もなかった時代、先ごろまで栄えていた平家にまつわるエピソードや戦いの記録が盲目の琵琶法師によって全国に語り継がれていったのでしょう。

つい最近(2016年7月11日・月)、NHKのETV「にっぽんの芸能」でも琵琶法師が取り上げられました。

800年とも言われる平家琵琶(琵琶法師)の流れをくむ検校(けんぎょう=盲人に与えられた役職で最高の位)が今も伝承されているのです。
名古屋に在住の今井勉さんがその方。時代の変遷を経てなお現代に伝わる検校の秘密、「平家物語~竹生島詣」の実演もまじえ、その「語り」(=琵琶に合わせて「歌う」)が紹介されました。

*金子さんは、とくに琵琶法師の語りを意識して真似たものではなく、まったく独自の世界です。


◆現代にも通じる平家物語のメッセージ

「平家物語」といえば、高校~大学受験の「古文」にも必ず登場し、「軍記もの」の代表のようにいわれます。
しかし冒頭にも書いたように、その中身は決して戦での手柄話をつづった英雄的な武勇伝でもなければ、平家の繁栄を「万歳」とたたえるものでもありません。

時代を超えて訴えてくる、人の心の葛藤、戦(戦争)はいったい誰のためにしなくてはいけないのか、人の世を治める政(まつりごと)とはどうあるべきか…といったテーマが随所に隠されています。

これは私のイメージですが、全体を通して受けるのは「反戦もの」ではないかとも思えてきます。

今回の公演で語られたのは、とても有名な3か所。高校の古文を思い起こしながらあらためて…


◆第一段より 「祇園精舎」

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」にはじまり「おごれるものも久しからず」「ただ春の夜の夢のごとし」といった冒頭部分だけを見ると、後の「方丈記」にも通じる「無常」「世のはかなさ」「もののあわれ」のようにも見えます。

しかしそのすぐ後に続く部分を見ると、遠く異朝(=外国)を見ても、近く本朝(=日本)を見ても、無謀な政治は決して長くは続かず必ず滅びると言っています。

「旧主先皇の政(まつりごと)に従わず、楽しみをきわめ、諫めをも思い入れず、天下の乱れんことを悟らずして、民間の憂うるところを知らざりしかば、久しからずして亡じにしもの」と書かれています。

これは現代の政治にもそのまま当てはまるのではないでしょうか?

第1段 「祇園精舎」


◆第9段より 「敦盛の最期」

この段に登場する熊谷次郎直実(くまがえのじろうなおざね)は、武蔵野国の住人と名乗っています。今日の埼玉県熊谷市、夏は猛暑となるので有名なあの熊谷ですね。
戦いに駆り出された武将たちは、恩賞を得るために手柄を立てることを目指しています。

陣営を背後から襲われた平家の武者たちは、海に待機する助け舟にのがれようとします。その水際で、直実は大将らしき敵の武将を見つけ「卑怯にも敵に後ろを見せるのか?返させたまえ」と叫びます。すると若い敦盛は素直に引き返します。水際で馬から引きずり下ろし、いざ首を取ろうと兜をどけてみると…

歳のころはまだ16~7ばかり。自らの息子・小次郎と同じぐらいの年齢。その息子が少し怪我をしただけでも心配なのに、首を打ち取られたと聞いたらこの人の親はいかばかり嘆き苦しむだろう…
なんとか助けたいと思うが、振り返れば、後ろには土肥・梶原の味方のおびただしい軍勢。どうせ討たれるならせめて自分の手で…。

第9段 「敦盛最期」(1)

泣く泣く首を取り、いざその首を包もうとすると、腰には錦の袋に入った笛が!
けさ早く、陣営から管弦の音色が聞こえたのは、この人たちの奏でたものだったのか…
味方にも多くの武将はいるが、戦場に笛を持参する者などどこにもいない…
なぜこんな方の首を取らなくてはならないのだろう…

人の親として、人の道に反しても武士という身であることの葛藤から、直実はその後仏門へ入ります。

第9段 「敦盛最期」(2)


◆第11段より 「那須与一」

これはあまりにも有名なエピソード。
沖に浮かぶ舟の舳先に掲げられた扇の的を射って落とせ、という源義経の命令を受け、若き那須与一が指名されます。

しかし、敵も味方も見守る中、もし射止めることに失敗したら後々まで恥となると辞退を申し出ますが、義経の逆鱗に触れます。「わざわざ鎌倉からここまでやって来て、命令を聞けないなら今すぐに帰れ」と。

→ 第11段 「那須与一」(1)

「南無八幡大菩薩、日光大権現、宇都宮・那須の湯泉明神…」思いつく限りの神仏の名をあげて願をかけて集中し…そのプレッシャーたるやいかに!? 
風がやんだ瞬間放たれた矢は見事命中、扇は空に舞い上がり、敵も味方もどよめいてパフォーマンスは見事成功!

→ 第11段 「那須与一」(2)

この箇所に限りませんが、登場人物の来ている衣の色や扇の色など、色彩に関する記述がじつに具体的で細やかで、目をつぶって聞いていると、状況が色彩豊かに浮かんできます。



「平家物語」は、読んでストーリーを追うもよし、目を閉じて情景を色彩豊かに思い描くもよし、人の世が続く限り変わらないメッセージとして受け止めるもよし…

みなさんもあらためて「平家物語」と出会われてみてはいかがでしょうか?

★秋にかけての公演スケジュールは、こちらのフェイスブックページをご覧ください。
→ 平家物語 ~語りと波紋音~


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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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