あらためて「民意」とは?

かなり前にこのブログでも「民主主義って何?」と題して書いた中で、ひとつの喩えとしてこんな話題を出しました。

◆「民意」を大切にするアマチュアオーケストラ?

メンバーが100人いるアマチュアオーケストラで、年に2回の定期演奏会でどんな曲を演奏したいか、団員にアンケートを取ったとします。
100人中80人は、金管・打楽器バリバリの大編成の曲(例.ストラビンスキーやマーラーの交響曲など)をやりたい人だったとします。
一方、残る20人は弦楽器や木管を中心にモーツァルトの室内楽などでアンサンブルの基礎をきちんとやりたい人たちだったとします。

毎回アンケートを取って多数決で決めていく方法だと、いつも80人の意見が通り、メンバーの足りない弦パートにはトラ(=エキストラ、つまり外部からの賛助メンバー)をたくさん入れて本番直前に一気にメンバーが膨らんでそれらしい音になる…そんな活動がずっと続くことになります。

「ふだんからじっくりアンサンブルの基礎を学び、少人数でもいいから自分たちの音楽を作りたい」という少数派の意見はいつまでたっても実現されません。

運営委員は言います。
「ちゃんと毎回アンケートを取って、メンバー全員の意見を聞いた上で公正に多数決で決めている。ちゃんと皆の声を聞いて民主的にやっている。ここではこういう曲を望む人が多い、うちはそういう団体なんだ。文句があるなら他に行けばいい」…と。

東京・神奈川などの大都会では音楽人口も多く、活動団体もたくさんあります。その団体の方針が合わなければ自分に合った活動をしている他の団体を探すか、自分たちでそういうグループを作ればいい、という考え方もたしかにあります。でも音楽人口の少ない地方都市だったらどうでしょうか?

いやいや、問題は大都市か地方都市かの違いではなく、ひとつのファミリーのような自主運営の市民楽団において、いくら毎回アンケートを取って全員の声を聞いてるとはいえ、いつもいつも多数決だけで決めていく方式で、本当に「民意」を反映させていると言えるかどうか?…という点が問題なのです。


多数決だけで「民意」と言えるか?

たとえ少数派であっても、20人の人たちの気持ちや希望も大切な「民意」です。せめて5回のうち1回は少数派の意見を重視した内容にする、またはプログラムの中にそういう曲目も取り入れる、あるいは大規模な定期演奏会の他に室内楽のアンサンブルのできる小さな行事も検討する…といった風に、少数派の意見もなんらかの形で汲み取ってこそ本当の「民主主義」ではないかと。
この話、じつは私も前に所属していたある団で弦楽器に造詣の深い方がおっしゃっていたことなんです。

いきなり音楽団体の運営の話に喩えましたが、ひとつの分かりやすい例としてご理解いただけますよね?
もし子供が何人もいる家庭で「カレーを食べたい」「焼肉がいい」、あるいは夏休みに「海に行きたい」「山に行きたい」などと意見が割れる場合、家族みんなを大切に思う気持ちがあればいつもいつも多数決で決めないで、たまには少数の好みに合わせたり、なんらかの形で両立できないかを配慮するのではないでしょうか?

ところが日本の社会においては、しばしば「多数決」の数字だけを絶対視して少数派の意見は常に切り捨てていくような、本当の「民主主義」が正しく理解されていないのではないかと感じる場面も多々あるのではないでしょうか?


「賛成・反対」の数字の中味

どんなことに対して賛成もあれば反対もあります。人の意見はさまざまあっていいわけで、そこは否定すべきではありません。
ただ、ものごとの本質をちゃんと分かった上で、どう理解して「賛成」「反対」と言っているのか?…その中味が重要です。

先ごろ、安倍政権によって「特定秘密保護法案」が打ち出された時、決議の直前にはかなりの人たちが国家による言論統制を心配して「反対」を唱えましたが、まだ法案が出されて間もないころは「(法案は)必要だ」と答えた人の割合がけっこう高かったように記憶しています。

ちなみに昨年10月16日のNHKニュースで報じられた調査結果によると、特定秘密保護法案について「知っている」と答えた人(「よく知っている」と「ある程度は知っている」の合計)はわずか23%(=4人に1人にも満たない)という結果が出ています。

特定秘密保護法案NHK調べ

たしかにそのころ、私の身の周りでも「個人情報があちこちで流出するのは問題だ。個人の“特定の秘密”が守られなくてはいけない。→保護法案はあっていいんじゃないか」とおっしゃる方が何人かいらっしゃいました。

皆さんお分かりでしょうが、この法案はそういう趣旨とは全く違いますね。
国(政府)のトップの判断で、国民に知らせるべきではないと判断された情報は「保護」され、それを国民に知らせた公務員は「処罰する」という法案なんです。尖閣諸島の近くで海上保安庁のj船に体当たりしてきた中国の船を撮影した動画が、庁内のサイトから「流出」したことに端を発して、公務員の守秘義務をより厳しくするためにこの法案が出されたのです。

でも、国家が国民に事実を知らせないようにする…福島の原発事故のことが頭をよぎった人も多かったでしょう。そこを理解すれば、「国民の知る権利を奪う、メディアへの圧力など言論統制にもつながる、→とんでもない法案だ!」と思われた人もけっこういらしたはずです。
問題は、「何をもって秘密とするのか」の定義があいまいなまま法案が可決されてしまったことです。

これはかなり極端な例かと思いますが、言葉を勝手なイメージで解釈して、自分に直接関係のあるところだけで考えて、感覚的・感情的に「賛成」「反対」を言っているだけでは、ちゃんとした社会的な「意見」とは言えません。

またよくニュースでも街頭インタビューがありますが、「個人商店を営んでいる人は…、大企業は…、中小企業は…、街の消費者は…、〇〇関係の業界の人は…」と立場が変われば賛否も考え方もさまざまでしょう。それはいわば「立場による(都合の)違い」であって、社会全体を見渡してどう思うのかという「意見」とは必ずしも言えないように私には思えます。

新聞などのメディアによるアンケート調査も、どういう人を対象に(男女、各年齢層、さまざまな職種、住んでいる地域など幅広くサンプリングしてるかどうか)、基本的な認識をきちんと共有したうえで、どういう質問をどういう順序でしていくかによって、賛成・反対の答えは違ってくるはずです(アンケートにおけるバイアス効果)。

そのような内容を吟味することなく、ただ単に結果としての数字だけを見て「賛成…〇%、反対…〇%」と発表し、それを見た人もまた「ああ、こっち寄りの考え方の人の方が多いんだな」と思い、自分もつい多数派の意見になびく…これで本当に「民意」と言えるのでしょうか?

賛成・反対の二者択一に限らず、さまざまな物事に対する考え方や意見についても、人の意見や考え方を尊重することはもちろん大切です。しかしその前提として、ちゃんと正しく理解して、ものごとを両面からしっかり考えた上で出された意見なのかどうか、という点が非常に重要です。

「多くの人たちが~~だから」とか「自分の意見を出したくないから…」では民主主義そのものが危うくなります。


◆集団的自衛権に関して

いまもっともホットな時事といえば、やはりこの集団的自衛権と憲法解釈の問題でしょう。

安倍首相は今月15日に有識者懇談会の意見を踏まえ、2枚のパネルを用いて会見に臨みました。「国民の命を守るため」という言葉を何度も用いて集団的自衛権が必要となる場面を具体的に示しました。

たとえば紛争状態の国や地域にいる日本の民間人(女性や子供)をアメリカの輸送船に乗せて航行中にもし第三国から攻撃を受けても、いまの制度では反撃できない。
またPKO活動で自衛隊が海外に派遣されて国際平和維持活動をやっている場面でもし武装グループに襲撃されても今の制度では反撃もできないなど、女性や子供をやや大きめに描いたパネルを用いて、国民に分かりやすく説明して理解を求めたのです。

集団的自衛権パネル 
5月26日「報道ステーション」画面より

ところが元海上自衛隊員をはじめ軍事に詳しい専門家らは、海外で紛争が起きた時に、現地にいる日本の民間人をアメリカの船で輸送するということ自体が考えづらいと言います。集団的自衛権の必要性をアピールするために取ってつけたような、実際にはあまり考えられない事例であると批判します。

元自衛権の見解 
5月26日「報道ステーション」画面より

軍事に詳しい専門家らは、まず今の自衛隊法を見直して自衛隊の活動範囲をより明確にする必要があると説きます。その上で、たとえば今は日本の自衛隊をお隣の韓国に派遣して韓国の港に接岸させたり、韓国の飛行場に自衛隊機を着陸させることはできないわけで、そこは「外交」としてきちんと相手国の同意を取り付ける必要があると。
つまり、集団的自衛権や憲法の解釈変更を論じるよりも前に、政府は今の平和憲法を前提に、もっと外交努力をすべきだということです。

いかがでしょうか? 少なくともこのあたりまでの認識を踏まえた上で、集団的自衛権や憲法解釈の是非を議論する必要があるのではないでしょうか?

新聞各社による世論調査も最近よく行われているようですが、そこに表れた数字(結論)だけを見て「へえ、こっちの考えの人の方が多いんだ~」と鵜呑みにするのではなく、ものごとの本質を考えて、その数字が何を意味するのかまでを見る目が大切かと思います。

ところで皆さんは、この世論調査の結果をどうご覧になりますか?

集団的自衛権、新聞各社世論調査 
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プロフィール

高木 章

Author:高木 章
アマチュアの打楽器奏者です。

某放送局関連に勤務しながら長年趣味で続けてきた音楽活動。あるご縁から、障がいのある方たちとも音楽を通じてのバリアフリーを、また東日本大震災以降は「がんばろう日本」…そんな活動を続けています。

単に自分が音楽が好きだから演奏したいだけでなく、「音楽の力」で「せめて自分にできることを」!

50代半ばにして勤め帰りに学校に通い「音楽療法」を学びました。

音楽寄りの話題、社会・時事に関する日常的なあれこれを徒然なるままに…
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カウント開始 2011.1.14~
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